岡本織物株式会社

岡本織物株式会社|代表取締役 岡本圭司さん 専務取締役 岡本絵麻さん

受け継がれてきた西陣織を次の世代に繋げる。

こんにちは、TCDインタビュー編集部です。今回は、京都市上京区で西陣織「金襴」の伝統を守り続ける「岡本織物株式会社」さんのインタビューです。長い歴史を持つ「金襴」の魅力と、伝統を守るための新たな挑戦について伺いました。

手織りでしか出せない本物の質感。

– 岡本織物さんは、一人ひとりが織に関する職人の「職人集団」なんですね。

私たちは問屋ではなく「織職人」として、代々技術を受け継いできました。曽祖父の代にはすでに織屋を営んでいたと聞いています。自宅が工房なので、僕の父(当社生まれ)も母(帯の織屋生まれ)も機の音を子守唄にして育ってきました。代々織屋として、織が日常にある暮らしが当たり前でした。

– 織が暮らしそのものという環境で、代々技術が受け継がれてきたのですね。その技術でどのような製品を作られているのでしょうか。

主に寺院に納める袈裟や打敷などを製作しています。ただ、手織りに関しては納品先がほぼ決まっており、ネットなどに柄を公開することもできません。西陣織は、素材や技法すべてにおいて、数百年にわたる伝統を守りながら、常に進化しながら培われてきました。中でも当社の金襴は、絹に本金糸を用いた格式高い織物をメインとし、その織り方や意匠には厳格なルールがあります。

– 厳格なルールの中で伝統を継承してきた金襴の「一番の魅力」は何でしょう。

本格的な金襴には「本金引箔」と呼ばれる和紙に漆を塗って金箔を貼った美しい糸が使われています。その上品な輝きこそが金襴の一番の魅力です。例えば、海外で見るようなどこか軽く、浅い印象を受ける金色装飾とは違い、落ち着いた深みと奥行きを感じさせる上品な光沢が「本金」にはあります。その上質な輝きには、言葉にしなくても、ひと目で「本物だ」と感じさせる力があります。

– 上品に輝く美しい糸が、職人の手織りにより「金襴」として生まれ変わるのですね。

私たちは昔ながらのシャットル織機を使っています。手織りは一越一越時間をかけて織り、力織機では手織りよりも早く織れますが1日で1mも織れない場合もあります。手織りのイメージとしては「鶴の恩返し」に出てくるような織機です。今主流となっているレピア織機、エアージェットやウォータージェットといった高速の織機では高級金襴は織れないんです。特に、手で筬を打った時に出るちょっとした「ゆらぎ」と緯糸が山を持って入るため、独特の、西陣では「むっくり」と言う質感を生み出します。シャットル織機を使い、この質感を出せるのが私たちの強みなので、今後も大切にしていきたいです。

伝統を未来に繋げる取り組み。

– 岡本織物さんは「織職人」ですが、他にもたくさんの職人がいて成り立っていると聞きました。

西陣がなぜ日本でもトップクラスの技術力を誇るのかと言うと、全ての工程が分業制なんです。金糸の製造から織り、そして仕上げや修理まで、それぞれに専門の職人がいます。分業はとても細かく分類されていて私たちも最近まで知らなかった職人仕事もありました。例えば織機のジャカード部分につかう針金のねじれを直す職人とか。「そこも専業なの?」と驚くことがあります。ひとつの製品が完成するまでに多くの職人の手を経ているんです。

– 職人がそれぞれの専門分野で腕を磨いてきたことで、世界に誇る「西陣織」ができているんですね。

そうやって西陣は規模を拡大してきました。様々な職人の力が結集することで成り立ってきたんです。もちろん、時代の変化とともに課題も少なくありません。しかし、私たちは伝統の技術を守りつつも、新たな可能性にも挑戦しています。

– 具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

新しい組織や意匠の織物を織ることはもちろん、たとえば、引箔づくり一筋だった職人が、他分野の技術にも挑戦できるよう各所でその仕事の紹介をし、今までと違う仕事が可能になったら素敵ですよね。職人たちが今までと異なる分野との接点を持つことで、これまでにないものが生まれる可能性があります。西陣という枠にとらわれず、広い視野を持って技術の活用方法を探る。それが新たな伝統の形を築き、共にこれからも歩んでいける一歩になると考え、私たちの仕事の営業の合間に、他社の職人の仕事も一緒にお客様にご紹介しています。

– 自分たちのことだけではなく、業界全体を見据えて行動されているんですね。

技術を未来へつなぐためには、文化を「守る」だけでなく、「活かす」視点も必要です。新しい分野への挑戦は、職人にとっても刺激になり、楽しさすら感じるかもしれません。異業種とコラボレーションしたり、新たな表現を模索したりと、まだまだできることはたくさんあると考えています。

ウェブサイトからメディアの取材依頼も。

– ここからはウェブサイトについてお話をお伺いしたいのですが、かなり早い段階からネットを活用されていたとか。

最初は2008年頃、金襴の端切れを使ってバッグやそろばんケースを制作したのがきっかけでした。金襴ならではの華やかさに、「一般には流通していないこの布地を必要とする人がいるかもしれない」と感じ、アメブロでの情報発信から始めました。当時は、社名を公に出すことに社内で反対の声もありましたが、インターネットの持つ可能性を信じ、一歩踏み出す決意を固めました。

情報発信強化のため様々なツールを試す中、自由度の高いWordPressが最適と感じ、TCDテーマを活用しながら試行錯誤していました。さらなるリニューアルを図るため、2023年に京都市の中小企業デジタル化推進事業を活用しながら、プロに「BASARA」を用いてウェブサイトのベースを作成してもらったんです。メガメニューなどの機能を活用しながら、情報設計やユーザー導線の再構築を行いました。

– ウェブサイトに力を入れることで、どのような変化がありましたか?

ウェブサイトを制作してから、お問い合わせも増え、さまざまなメディアからの取材依頼も舞い込むようになりました。NHKの「サラメシ」に出演したほか、息子がテレビ朝日の「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に出演するなど、テレビ出演やメディア露出など、発信した情報が次々と反響を生むようになり、政府や外務省、海外ブランドからの注文も頂けるようになりました。私たちは営業力に乏しく実店舗を持たないため、ウェブサイトはまさに「もう一人の営業マン」と言える重要な存在です。

– 今後、ウェブを通じて目指すビジョンについてお聞かせください。

まずは、金襴の魅力をより多くの方に知っていただくことが大切だと考えています。いかに優れた技術であっても、認知されず、必要とされなければ継承されることはありません。西陣の技術を未来につなぐために、私たちにできることはまだ多くあります。私どもの布地はとても高価なため、お客様が発注なさるのも一生に一回だと考え、大事に心を込めて織っています。そのような布地を知っていただきたいと、国内はもとより、海外への情報発信にも力を入れ、世界に向けて「金襴」の価値を広めていきたいです。

編集後記

岡本織物さんにお話を伺いました。伝統文化を守るため、アイデアと行動力で前向きに取り組む姿勢が強く印象に残りました。これまで代々継承されてきた技術を活かし、新たな分野へも幅広く挑戦されています。オンラインショップで品質の高い生地を買って、ご自身で小物製作も可能です。重厚な万年筆ケースもおすすめです。ぜひご覧になってみてください。

岡本織物株式会社

https://okamotoorimono.com/

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