PANORAMA JOURNEY | ワードプレステーマTCD

パノラデザイン有限会社|横谷 恵二さん

記憶から消えゆく景色をVRパノラマとして残したい。

こんにちは、TCDインタビュー編集部です!
突然ですが、VRパノラマをご存知でしょうか。不動産業界でよく使われていますが、パノラマ写真家の横谷 恵二(ヨコタニ ケイジ)さんの撮るVRパノラマはそれとは違い、音や匂いを感じるほど臨場感あふれるものでした。このような写真を撮るために、日頃どのようなマインドで写真と向き合っているのか、お話を聞きに北海道に行ってきました。

空間をあえて切り取らず、
ありのままを記録する。

– 初めてブログに掲載されているVRパノラマを見た時は衝撃を受けました。VRパノラマに興味を持ったきっかけを教えてください。

元々、1990年代のインターネット黎明期より、教育系のCD-ROM制作等、デジタルコンテンツに携わってきました。PCの性能もテキスト表示のみから、富士通のFM TOWNS(世界初のCD-ROMドライブ標準搭載PC)のように音声・画像対応のPCが登場するなど、少しずつ技術が進歩し、表現できる幅が広がっていった時代です。

そして、1995年頃にAppleによりQuickTime VRという技術が開発されました。ただ、当時はCPUやグラフィックの性能も良くないため画像も小さくしか表示できず、面白味が無かったんですね。ところが、2000年代に入ると光ファイバーやさらに高性能なPCの登場により、大画面でVRを表現できるようになりました。そこで初めて「これは面白い!」と興味を持つようになりました。

– 新たな技術の誕生により可能性を感じたんですね。

そうなんです。そして、大きなきっかけは2005年に「Panoramas of WW2 Landmarks」という第二次世界大戦の遺構を360度VRパノラマで保存するインターネット・プロジェクトに参加したことです。当時、東京の稲城市に住んでいたので、東京に残っている戦争の遺構を撮影したのですが、こういった遺構は今記録として残しておかないと無くなってしまうかもしれないですよね。このプロジェクトにより、記憶から無くなっていくものを記録として残す必要性を感じました。

– 通常の写真にはない、パノラマ写真のメリットとはどういった点でしょうか?

通常の写真は撮影者の意図で時間と空間を切り取りますよね。360度VRパノラマは、あえて切り取らない。ありのままの空間を記録します。例えば、何か事件があったとします。事件現場で普通の写真で被写体を撮影すると、撮影者の背後や足元などはどうなっているのか分からないですよね。パノラマで撮影すると現場の全てが記録される。撮影者の意図に関係なく、その場の人々の暮らしや空気感まで全てが残るんです。あえて切り取らないことが、「ありのまま」に繋がるのです。

ひっそりと消えていく日常。
それを歴史として残しておきたい。

– 横谷さんの作品は五感を刺激する魅力がありますよね。例えばこのVRパノラマ。心地いいJAZZの音色まで聞こえてきそうです。

CDやレコード、壁に飾られている写真など、店の歴史を感じられますよね。高精細な写真だからこそ、拡大することで床の傷一つひとつまで、まるでそこにいるかのように細部を見ることができます。

そして、このVRパノラマ内に人がいることがポイントです。私は昭和のにおいがする建物や歴史を感じるものが好きなんですが、基本的には人物を入れて撮影するようにしています。建物は生活の場であり、住人の生活や考えが反映されるので、「その人」がいることにより説得力が増すんです。「建物の歴史=住人の歴史」なんです。

– 表情や佇まいから人物像を想像し、話しかけてしまいそうなほどの臨場感があります。

その空間がありのままに残っているからだと思います。例えば、昭和の家具・家電もそのまま映っていますよね。現代のように洗練されていませんが、それがとてつもなく愛おしくて、懐かしい感覚を覚えます。私はそのような日常の景色に興味があるんです。

博物館や美術館にあるような価値を認められたものは後世に残ります。ただ、日常的に使用していたものや、懐かしい景色は時代の流れとともに消えていく。ひっそりと消えていく人々の日常の景色を、歴史として残しておきたいんです。

– いつかそこに住まう人々がいなくなり、建物が取り壊されたとしてもインターネット上に歴史として残る。それを未来の人が見ると思うとロマンがありますね。

だからこそ、インターネット上に作品を残すことに意味があります。私が携わってきたコンピュータの歴史の中で、ヴァネヴァー・ブッシュというアメリカの科学者が「必要な情報にたどり着くには大変な努力が必要で、もしかしてたどりつけないのでは?」という考えから「メメックス」というハイパーテキストやWorld Wide Webの原型とされるシステムの概念を作りました。

いつか未来で誰かが知りたい情報を検索した時に、その情報が残っていないと検索システムがあっても意味がないです。だから、今の時点での意味を問うよりも、情報を残し「後で辿れる」状態を作っておくことも大事だと考えています。

「Think Globally Act Locally」(地球規模で考え、足元で行動せよ)という言葉が好きで、まずは自分の足元から地元で変わりゆく風景を記録として残していくというのが基本です。

時代の変化に合わせてメディアも変化させたい。

– 「PANORAMA JOURNEY」を立ち上げた経緯を教えてください。

元々、稲城市で「稲城パノラマビュー」という前身のサイトを運営していました。マップをFlashで作成し、ポイントを打ちながらお店や公園などのVR写真をマッピングすることで広告ビジネスができないかと考えていました。ところがGoogleマップが登場し、大手と競合するのは難しいと感じるようになりました。その頃、両親のアパート経営を引き継ぐ関係で出身地である札幌に移転したのを機に、北海道の「残しておきたい懐かしい風景」を撮影し、記録として残すことで誰かの役に立てればと考えるようになりました。パノラマ写真の魅力は「記録」という部分なので、それに特化したサイトを作成しようと思ったのですが、当時はVRパノラマの認知度もなく、説明するのが難しかったんですね。そこで、VRパノラマはこういうものだと説明できるコンテンツが必要だと感じ、サイトを立ち上げました。それが「PANORAMA JOURNEY」です。

– TCDテーマ「ROCK」はご期待に沿えましたか?

以前は海外のテーマを使っていました。海外のテーマはアルファベットを基準にデザインされているので、日本語表示のクオリティに満足ができなかったんですね。TCDさんのサイトは、日本語がほんとに美しい。読みやすいんですよね。タイトルや見出しのバランス、本文の読みやすさに魅力を感じました。また、パノラマ写真を表現するにあたり、インパクトがあるトップページヘッダーのデザインも期待通りでした。

以前は「Grider」を使用していたのですが、スマホでレスポンシブ表示に対応していなかったため「ROCK」に変更したという経緯もあります。TCDさんは時代に合わせてどんどん進化してくれているので、これからも期待しています(笑)。

– ご期待に沿えるよう頑張ります!変化の速いデジタルの世界の波に乗りながら、その時代に合わせてアップデートしていく楽しさもありますよね。

デジタルの世界はまだまだ発展途上ですよね。昔はPCのみで閲覧できれば良かったが、今ではスマホが主流です。VRパノラマで言うと、始めた頃からQuickTime VR→Flash→HTML5というように時代に合わせて変化しています。今後、メディアがどうなっていくかは予測しにくですが、その時代に合わせて「PANORAMA JOURNEY」も進化して行ければと思っています。その時代に合わせてメディアを運営しながら、「思い出の記録」を続けていきたいです。

編集後記

北海道で活動されているパノラマ写真家 横谷 恵二さんにお話をお伺いしました。VRパノラマご覧いただきましたか?高精細な写真を使用されているため、拡大すると細かい部分まで映っているのが分かると思います。まさに「全体の記録」ですね。このVRパノラマは多い時は100枚以上の写真を繋ぎ合わせて作成されているそうです。ぜひ細かい部分までじっくりとご覧ください。何か新たな発見があるかもしれません。横谷さん、ありがとうございました!

パノラデザイン有限会社

https://www.panorama-journey.com/

新着インタビュー

ページ上部に戻る