コトを進めるにあたって、丁寧に取り組むことはポジティブな意味で捉えられています。ただ、丁寧さの裏に潜む弊害はないのでしょうか。

本稿では丁寧にやりすぎることで起こる損失について考えていこうと思います。丁寧にすることがダメだとするものではなく、丁寧なことはもちろんよいことだけども「やり過ぎない」視点が必要ではないか、またその視点は具体的にどういうものかを考察した記事です。

全行程に全力を尽くす必要はない

作業には進行に丁寧さを要する部分ありますが、全行程に対して「丁寧」を地で行ってしまうと、時間がいくらあっても足りない事態を招くケースはいくらでも出てきます。特にWeb制作の現場においては細かく、しかも短い納期が設定されているのが常です。そうした現場では納期を守ることは絶対であり、品質も高めていかなければいけません。

期日を守るために最終的なブラッシュアップが追いつかない状況はもどかしいでしょうが、期日間際になって急いで完成に持っていこうとすると、コンテンツの質はほぼ間違いなく落ちます。どんなコンテンツでも、制作してからの休眠期間が必要であって、勢いで制作したコンテンツは完成後に最低でも丸1日間寝かせてから最終調整に入ることで魅力に磨きがかかるものです。このことに薄々気づきながらも、完成後すぐに納品(or次の担当者へバトンタッチ)といった流れで日々時間に追われているクリエイターは少なくないでしょう。

丁寧さを優先した結果、
スピードだけを落としてしまうケース

期日に間に合わなかったり、いつもギリギリになるのはスキル不足や経験不足が要因の大きなウェイトを占めるでしょう。また、自己のスケジュール管理の問題でもあります。ただ、同時に「丁寧さ」を作業の優先順位に高めていることも一因としては大きいものです。丁寧にする意識を強く持っている人は、下記の3項目を時折自分に問いかけてみるのも手です。

  • 本当にその丁寧さでよいのか
  • 時間はたくさんかけたが、本当に品質が良くなっているのか
  • ここまでやると過剰品質ではないのか

自分の「丁寧さ」を疑ってみるということですね。いい結果を出すための「丁寧さ」になっているのか、ということです。このことは階段を丁寧に一段飛ばしで駆け上がることと似ています。本来は1つ1つ駆け上がる必要があるというルールがあったとしても、早く、そして着実にゴールに辿り着くには一段飛ばしたり、エレベーターで一気に登ってしまうやり方も考えられるということです。

例えば、WordPressを使って一からWebサイトを制作する場合、教科書通りのフローはデザイン→HTML化→WordPress実装という流れでしょう。でも、HTML化とWordPress実装を同時に行ってもさほど問題はないのです。

さすがにデザインとコーディング&WordPress実装を同時並行で進めるのはさすがにクオリティに問題が生じやすくなりますが、HTML化とWordPress実装を別々にやる意味はほとんどありません。確かに工程や担当者を切り分けることで明確になることはあります。HTML化してしっかりと動きの部分をチェックした上でWordPress実装に取り掛かったほうがミスも少ないでしょう。でも、このケースの場合、丁寧に進めた割に得られるメリットがほとんどない問題があります。

つまり、丁寧さとスピードはトレードオフの関係のように見えて、スピードだけを大きく落としてしまっているケースも珍しくないのです。

結果をだすことを目的にもつ

丁寧さとスピードの関係がトレードオフでないとすれば、丁寧さと品質が比例しないケースもあるということです。もちろん、時間やコストをかけることでいいモノが生まれることもあります。ただ、そうではないケースの方が確実に多いでしょう。

では、何を基準にすればいいかというと、「結果」です。過程ありきではなく、結果を出すための過程であるべきなのです。結果を出すにはどういう過程であるべきかの視点で考える必要があるということですね。

例えば、ブログの記事を書く時、一筆書きのように一度で書ききってしまうことは非常に有効な手段です。一見、丁寧さとは無縁のやり方ですが、結果的に良いモノを作ろうとするなら、有効な手段です。休憩を挟んだり、日をまたぐと書くテンションや視点が変わったり、モチベーションも違ってきます。そうすると一つの記事の中にムラが出来てしまう為、そこの修正にかかる時間を余計に取られてしまうか、そのまま出すにしてもユーザー目線から雑さ(または迷走)を感じさせてしまう記事になってしまうこともあるでしょう。

ただ、一筆書きでは甘い箇所も出てきます。だから、最後にブラッシュアップして引き締めていく。この「一旦完成まで持っていく胆力」はクリエイターにとってはわりと見過ごせない考え方だと思います。自分が丁寧にやっているようでもユーザーに価値を感じてもらえなければ意味がないからです。これが結果を出すことを目的にする理由です。

「丁寧さ」のバランスを顧客視点でチューニングした事例

ここでユーザーにとって何が価値と感じてもらえるのかという視点での成功事例を紹介していきます。誰しも知っているサービスばかりですが、それぞれの事例を見て、雑だな、丁寧ではないなと感じるでしょうか。業界の既存サービスと差別化するように、自分たちができる顧客視点の付加価値を持たせていると思います。決して手を抜いているということではなくて無駄な部分をそぎ落としている。ユーザーを絞り込むことで、ユーザーニーズに対してサービスがフィットしていっている。差別化を検討している方は自分の業界に置き換えて参考にするとよいでしょう。

・吉野家
飲食業態の中でも熾烈な競争を繰り広げる牛丼業界。中でも一つ抜けているのが吉野家。ちょうどWebサイト見てみると「うまい、安い、早い」だと思っていた吉野家のコンセプトが変化していました。公式サイトのロゴの上に「うまい、安い、早い、ずっと。」と書かれています。吉野家であっても、現在進行形でそのコンセプトをチューニングしながら未来を切り開こうとしているのだと思います。
※参考)吉野家文化とは https://www.yoshinoya.com/company/culture/

・ヘアカット専門店QBハウス
「10分の身だしなみ」というコンセプトのQBハウス。1時間程度掛けてサービスを提供する同業他社と異なるコンセプト(10分カット、1,200円)で新しい価値を産み出している。時折みることがある好待遇な求人広告からもその勢いの良さを感じることがある。
※参考)QBハウスとは http://www.qbhouse.co.jp/about/

・カクヤス
小売店をエリア内に配置することでそこからの出荷を実現。電話一本でビール一本からでも配達するという体制を作り、お酒が足りなくなったらすぐに調達できる店というポジションを確立している。高級なお酒は大量にお店にストックするわけにもいかないので、カクヤスのようなサービスを上手く使って運営されている飲食店も多い。

・写ルンです
最初からカメラにフィルムを内蔵、取り出しは筐体の解体を前提とした「レンズ付きフィルム」写ルンです。「買ってすぐに撮影できる」「フィルムの取り扱い不要」という特性が、新しい消費者のニーズを開拓した。

・LCC:ローコストキャリア
既存の航空会社が展開しているサービスの過剰品質の部分を一気にカットすることで、格安輸送を実現したLCC(格安航空会社:ローコストキャリア)。運航機種の統一、過剰な部品交換を行わないなどメンテナンスコストの削減、教育コストを下げる工夫などコストカットのできることを徹底して行うことで運賃が大幅に下がった。今や旅行するときの選択肢として候補に挙がらないことはないサービスとなっている。

価値を提供し続けるために変化をする

上に挙げた事例は一部に過ぎませんが、世の中を引っ張っている事業の多くがしっかりとユーザーニーズに合わせた変化を受け入れて成長しています。自分たちの思う「丁寧さ」がユーザーにとっても「価値のあるもの」であるかどうか、考えながら進めていく必要があるでしょう。丁寧にやる為に~という考えが顧客視点と離れて凝り固まっていないか、これを期に考えてみてはどうでしょうか。

ホームページ、Webコンテンツの制作現場でも、イチから自分で作る、制作業者に任せる、何かサービスを使って作る、など選択肢があります。ただ、完全にイチからすべてのシステムを組み上げるフルスクラッチの選択は今は大手企業を除いてほとんど選ばれることが無くなってきています。TCDのようなWordPressテーマを使って制作するほうが、制作業者に一から依頼するよりも時間やコストだけでなく、品質やウェブサイトの機能性も高い傾向があるからです。

Web制作に限らず、テクノロジーの進化に伴い、あらゆるリソースがフリー、もしくは低料金で利用できるようになった昨今では一からの自社開発にこだわる必要性も薄れてきました。すでにあるモノを活用しての構築にクリエイティビティを持たせることができる時代です。何に取り組むとしても、「どこに焦点を合わせて丁寧に取り組むべきか」を考えて、価値の引き上げに繋がるポイントを押さえることが重要ですね。