WordPressは世界中で使用されているCMSですが、Webサイトの規模が大きくなると、従来の構成では限界を感じる場面が出てきます。特に、パフォーマンスやセキュリティ、マルチチャネル配信などでは課題に直面するでしょう。
WordPressに限界を感じたときに検討したいのが、ヘッドレス化(ヘッドレスCMS)です。
この記事では、WordPressのヘッドレス化のメリット・デメリットと、失敗しないためのポイントを詳しく解説します。ヘッドレスCMSの特徴を把握したい方、導入を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
WordPressのヘッドレス化とは
WordPressのヘッドレス化とは、従来の構成を解体し、コンテンツ管理機能(バックエンド)と表示機能(フロントエンド)を分離して運用するアーキテクチャです。
一般的なWordPressは、一体型のシステムを採用しています。
- データベースからコンテンツを読み込む
- テーマやプラグインを使ってHTMLを生成する
- Webページとして表示する
ヘッドレス化したWordPressは、WordPressをコンテンツの「データ貯蔵庫」としてのみ利用し、表示は別のフレームワークやライブラリを使って行います。
したがって、WordPressの管理画面でコンテンツを作成・編集する点は変わりませんが、API(Application Programming Interface)を通じて外部に提供される点が異なります。
API(Application Programming Interface)とは アプリケーションの機能やデータを外部システムから利用・連携させるインターフェースの仕様 |
外部アプリケーションがAPIを介してコンテンツを取得し、それぞれのデバイスやプラットフォームに合わせて表示すると、さまざまなチャネルへの配信が可能です。
WordPressをヘッドレス化するメリット
WordPressをヘッドレス化するメリットは、5つあります。
- フロントエンドを自由に開発できる
- サイバー攻撃を受けるリスクが減る
- 表示速度がアップする
- WordPressの管理画面をそのまま使用できる
- さまざまなチャネルを配信できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
フロントエンドを自由に開発できる
WordPressをヘッドレス化するメリットは、フロントエンドを自由に開発できる点です。
従来のデザインおよび表示は、WordPressのテーマに依存していました。しかしヘッドレス化すると、表示部分を完全に独立させられるため、React、Vue.js、Next.jsなどのJavaScriptフレームワークやライブラリを自由に組み合わせて開発できます。
たとえば、アニメーション要素を盛り込んだサイトの構築や、特定のブランドイメージに合わせた独自のデザイン、Webサイトのデザインやユーザーインターフェース(UI)など、さまざまなカスタマイズが可能です。
ユーザーとシステムや製品の間で、情報をやり取りするための接点のこと
サイバー攻撃を受けるリスクが減る
WordPressをヘッドレス化すると、サイバー攻撃を受けるリスクが減ります。
従来のWordPressはコンテンツ管理と表示が一体化しているため、脆弱性を狙った攻撃が行われると、サイトの表示部分にも影響が出る可能性がありました。
しかしヘッドレス化をすると、フロントエンドとバックエンドを分離できるため、本体の内部構造が見えにくくなります。これにより、本体への攻撃の減少を期待できます。
また、フロントエンドを静的サイトジェネレーターなどで構築すれば、さらなるセキュリティ強化が可能です。
テキスト入力ファイルを使用し、静的なWebページを生成するソフトウェアエンジンのこと。
表示速度がアップする
WordPressのヘッドレス化は、表示速度の向上も期待できます。
従来のWordPressは、訪問者がアクセスするたびに、サーバー側でデータベースへの問い合わせやPHPの処理が行われます。そのため、表示速度が遅くなりがちでした。
一方でヘッドレス化したWordPressでは、フロントエンドを高速なフレームワークや静的サイトジェネレーターで構築可能です。これにより、訪問者からのリクエストを事前に生成されたHTMLファイルなどで提供できます。
WordPressのヘッドレス化は、サーバーの処理負荷の軽減に有効です。適切に実施すれば、ページの読み込み速度を向上させられます。
WordPressの管理画面をそのまま使用できる
WordPressをヘッドレス化するメリットは、使い慣れたWordPressの管理画面をそのまま使用できる点です。
コンテンツ作成者や編集者からすると、新しいCMSの操作方法を学ぶ必要がありません。そのため、これまでと同様に記事の作成や編集、メディアファイルの管理を行えます。

WordPressの管理画面
コンテンツの入力や管理はWordPressのバックエンド機能に任せつつ、Webサイトの表示部分は別のフロントエンド技術で構築できる点が強みです。
運用ワークフローを大きく変えずに、サイトの技術的な側面を強化したい場合は、ヘッドレス化を検討する価値があるでしょう。
さまざまなチャネルを配信できる
WordPressをヘッドレス化すると、複数のチャネルへコンテンツを配信できます。
従来のWordPressは、主にWebブラウザでの表示を前提としていました。しかしヘッドレス化を実施すると、コンテンツがAPIを通じて提供されるため、WebサイトだけでなくスマートフォンアプリやIoTデバイス、デジタルサイネージ、VR/ARアプリケーションなど、あらゆるプラットフォームやデバイスに同じコンテンツを配信できます。
たとえば、WordPressで作成したブログ記事を、Webサイト・iOSアプリ・Androidアプリで同時配信できます。
これにより、顧客との接点を増やせるほか、さまざまなユーザーエクスペリエンスを提供できるでしょう。
WordPressをヘッドレス化するデメリット
WordPressをヘッドレス化するデメリットは、4つあります。
- コストが高くなる
- 導入と運用のハードルが高い
- 従来使用していたテーマやプラグインが使えなくなる
- SEOに課題がある
それぞれ詳しく解説します。
コストが高くなる
WordPressをヘッドレス化すると、コストが高くなりやすいです。
従来のWordPressは、バックエンドとフロントエンドの両方をひとつのサーバーで運用できました。しかしヘッドレス化では、コンテンツ管理を行うWordPressに必要なバックエンド用サーバーと、表示を行うためのフロントエンド用サーバー(あるいはホスティングサービス)が必要です。
したがって、それぞれの費用がかかります。
さらに、APIを介して両者を連携させるための開発費用や、フロントエンド技術を扱うエンジニアの人件費も発生します。
導入と運用のハードルが高い
WordPressをヘッドレス化するデメリットは、導入と運用のハードルが高い点です。
従来のWordPressは、テーマやプラグインを導入するだけでWebサイトを構築できます。しかし、ヘッドレス化では、フロントエンドフレームワークを連携させるいくつかの専門知識が必要です。
- APIの設計や実装
- JavaScriptの基礎知識とフレームワーク
- フロントエンド開発環境の構築や依存パッケージ管理
- ヘッドレスCMSの設計
- デプロイとホスティングの知識
これらを理解しているエンジニアがいないと、外部の専門業者に依頼する必要があるため、コストと時間がかかります。
また、運用を開始した後も、バックエンドとフロントエンドそれぞれのシステムを管理し、連携を維持するための知見が必要です。
従来使用していたテーマやプラグインが使えなくなる
WordPressをヘッドレス化すると、従来使用していたテーマやプラグインが使えなくなるデメリットがあります。
従来のWordPressのテーマやプラグインは、表示機能と一体化しているため、ヘッドレス化された環境ではそのまま利用できません。
フロントエンドを別のシステムで構築すると、テーマの役割が無くなります。プラグインも、API経由でコンテンツを提供するタイプのものや、管理画面の機能拡張に特化したものしか利用できません。
したがって、ヘッドレス化する際は、機能の再構築や代替手段の検討が必要です。
SEOに課題がある
WordPressをヘッドレス化するデメリットは、SEOに課題がある点です。
特に、フロントエンドを完全にクライアントサイドレンダリング(CSR)で構築した場合、検索エンジンのクローラーがJavaScriptを完全に読み込めず、コンテンツを正しく認識できない可能性があります。
Webブラウザ上で、JavaScriptを用いてWebページのコンテンツを生成する手法です。
このような事態に陥ると、検索エンジンによるインデックス登録が遅れたり、ランキングが低下したりするリスクが高まります。
Googleは、レンダリングについて次のようにアナウンスしています。
Google 検索が対応していない JavaScript の機能もあります。そのため、ページによっては、レンダリングされた HTML にコンテンツが表示されないという問題が発生することがあります。他の検索エンジンでは JavaScript を無視し、JavaScript によって生成されたコンテンツが表示されない場合があります。
問題を回避するには、専門知識をもつエンジニアと実装コストが必要です。
WordPressのヘッドレス化で失敗しないためのポイント
WordPressのヘッドレス化で失敗しないためのポイントは、3つあります。
- 目的を明確にする
- フロントエンド技術の適切な選定
- 開発コストの見積もり
それぞれ詳しく解説します。
目的を明確にする
WordPressのヘッドレス化を検討する際は、目的を明確にしなければいけません。
なぜヘッドレス化が必要なのか、具体的にどのような課題を解決したいのかを具体的に探る必要があります。
最適なアーキテクチャや技術選定は、サイトの表示速度を劇的に改善したいのか、特定のデバイスにコンテンツを配信したいのか、セキュリティを強化したいのかなど、目的によって変わってきます。
ゴールが曖昧なまま進行しても、期待する効果は得られません。
プロジェクトを開始する前に、チーム全体で目的を共有してから計画を立てましょう。
フロントエンド技術の適切な選定
WordPressのヘッドレス化では、フロントエンド技術を適切に選定しなければいけません。
JavaScriptフレームワークやライブラリは多岐にわたり、それぞれ得意とする領域が異なります。サイトの目的や開発チームのスキルセット、将来的な拡張性などを考慮して、最適な技術を選びましょう。
フレームワーク | 特徴 |
Astro | コンテンツ駆動のWebサイトを作成するためのフレームワークで、JavaScriptのオーバーヘッドを低減し、高速でSEOに優れています。 |
Gatsby | 静的サイトジェネレーターとして人気があるほか、表示が速いサイトの構築が可能です。Reactを基盤とし、プラグインが豊富です。 |
Next.js | Reactをベースにしたフレームワークです。サーバーサイドレンダリングや、静的サイト生成、SEO対策にも定評があります。 |
Nuxt.js | Vueをベースとしたフレームワークです。中規模までのサイト構築に適しています。 |
React | インタラクティブなユーザーインターフェースの構築におすすめです。 |
選定を間違えると、開発効率が低下したり、希望するパフォーマンスが得られなかったりする可能性があります。それぞれの特徴を理解し、プロジェクトの要件と合致するものを選んでください。
開発コストの見積もり
WordPressのヘッドレス化は、従来のサイト構築よりも開発コストが高くなる傾向があります。これは、バックエンドとフロントエンドを別々に開発・運用するためです。
それぞれの開発工数をはじめ、両者を連携させる工数が追加で発生する点にも注意しましょう。
また、開発にはフロントエンド技術を扱えるエンジニアの確保が必要です。導入した後に予算がオーバーとしないよう、初期開発費用にランニングコストも含めて見積もりを作成してください。
まとめ
ヘッドレス化を成功させるには目的を明確にし、フロントエンド技術を適切に選定しなければいけません。
また、開発コストを正確に見積もることも大切です。
これらのポイントを押さえ、WordPressサイトの現状と照らし合わせながら、ヘッドレス化が最適かどうか慎重に検討してください。
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