少子高齢化社会を反映して、自ら人生の終わりの準備をしたり、身の回りを整理したりして、残り少ない人生を有意義に過ごそうという「終活」が静かなブームになっています。

身の回りの整理の中でも、長年にわたって撮りためてきた膨大な写真をいかに整理するかは、だれしも悩むところではないでしょうか。自分や家族、友人などの写真は、あとに残った人たちに、自分との思い出を偲んでもらうための大切な資料となります。それを誰もがアクセスしやすい方法で整理、保存し、継承してもらうことができれば理想的だといえるでしょう。すべての資料をデジタル化して管理できるようになった現代なら、それが可能です。

本記事では、終活用の写真整理ツールに求められる条件を検討し、その候補となるデジタルツールを選んで比較評価した上で、最適なツールとして、Adobeの「Lightroom CC」を取り上げ、その使い方を詳しく紹介したいと思います。

終活ツールの要件

写真整理の終活に適したデジタルツールを比較評価するに当たって、ツールに求められる要件を列挙すると、次の10項目をあげることができます。それぞれについて簡単に説明しておきます。

  1. 整理のしやすさ
  2. 写真編集能力
  3. 持続可能性
  4. 共有可能性
  5. 汎用性
  6. 使いやすさ
  7. 安全性(プライバシー)
  8. RAW画像の保存、編集
  9. スライドショーの上映可能性
  10. 容量の大きさ、価格の低廉さ

整理のしやすさ

終活で整理すべき写真は、紙焼きとデジタルを合わせると、人によっては数十万枚といった膨大な数に上ります。写真を通して自分の人生を振り返るには、これらを年代別、イベント別にきれいに分類し、アクセスしやすいように階層的に整理することができなければなりません。写真の検索機能も重要です。

写真編集能力

スキャナーでデジタル化した古い紙焼き写真は、しばしばセピア色に変色したり、白い枠が目ざわりだったりします。また、逆光で撮った人物写真は、しばしば黒ずんで顔が判別できないことがあります。こうした写真を鮮やかによみがえらせるには、写真編集機能を備えたツールが必要です。また、多様なフォーマットの写真に対応するには、JPEG、PNGだけでなく、最近増えているRAW画像などを編集する機能を備えたツールが求められます。

持続可能性

終活で写真を整理する場合に考えなくてはならないのは、写真を保存しておくツールが長期にわたって利用可能であるかどうかということです。もし保存庫のハードディスクがすぐにクラッシュしてしまったり、生産中止になってしまうとか、保存先のクラウドがサービス停止してしまったり、容量不足になってしまったしまったら大変です。苦労して整理した写真が子々孫々まで末永く受け継がれていくことは、写真整理ツールの満たすべき必須条件の一つといえるでしょう。

共有可能性

整理した写真やアルバムを家族や友人や参列者の間で簡単に共有できるかどうかも、重要な条件です。デジタルツールの場合、クラウドやハードディスクに保管した写真やアルバムを指定して、メールやSNSなどに転送することが可能です。これによって、お別れ会で見たスライドショーをあとでゆっくりと自宅で見返して、故人を偲ぶことなどができるでしょう。

汎用性

写真整理ツールのアプリがどの程度のデバイスに対応しているかも、終活用のツールとしては重要な要件になります。PCだけではなく、タブレットやスマートフォン、大画面テレビでも写真の整理、編集、上映が自由にできることは、とくに終活用の写真整理ツールとしては必須要件といえます。また、お別れ会や偲ぶ会などでの上映にすばやく対応するには、WiFiを通してスマートフォンやタブレットのアプリで写真を再生できることが必要になります。

使いやすさ

おそらく、終活としてデジタルツールを使って写真整理をする人は、デジタルに強い人が多いと思いますが、実際にこの写真整理ツールを引き継ぎ、長く使い続けるのは、残された家族や友人などになるでしょう。こうした必ずしもデジタルに強くない人たちでも十分に使いこなせるようなデジタルツールであることが、終活用の写真整理ツールとしては必要でしょう。それには、写真整理の仕方が分かりやすく、複雑な工程を自動的に処理してくれるツールがのぞましいでしょう。

安全性(プライバシー)

これは、整理した膨大な写真の中から、公開していいものと非公開にしておきたいものを簡単操作で区分することができるようなツール、登録アカウントをしっかり保護する対策のとられたツールかどうか、うっかり公開状態になって写真が他人に流出する危険性のないツールかどうか、ということです。ハードディスクに保管する方式はクラウドにくらべると安全性は高いですが、共有可能性、汎用性には劣ります。

RAW画像の保存、編集

最近のカメラは、編集による劣化のないRAW画像を保存できるものが増えています。スマートフォンでも、2022年9月に発売されたiPhone14 Proでは、4800PのRAW画像保存ができるようになっています。RAW画像で保存した写真は、何回編集しても画質が劣化することがなく、かつ元の写真よりも美しい画像に変換してくれるので、思い出の写真がいっそう印象深いものになります。もしRAW画像のデジタル写真をたくさん持っている方は、写真整理ツールもRAW画像対応のものを選ぶのがお薦めです。

スライドショーの上映可能性

スライドショーは、写真整理ツールに保存された複数の写真やアルバムを自動的に映画のように連続上映してくれるものです。各スライドの再生時間、トランシジョンの種類、再生方法などを自由に選ぶことができます。写真整理ツールの種類によって、これらの選択肢は異なっています。スライドショーは、お別れ会や偲ぶ会、家庭の大画面テレビなどで、故人との思い出をなつかしく振り返るのに欠かせない機能といえます。

容量の大きさ、価格の低廉さ

筆者が写真整理ツールを使って過去70年分の終活用写真をすべてクラウドに保存したところ、約30,000枚になり、ストレージの使用量は約250GBになりました。これが平均的かどうかは分かりませんが、終活目的で写真を選定すれば、人生100年としても、写真枚数が10万枚を超えることはまずないでしょう。その場合、ストレージも1TBあれば十分ではないでしょうか?次の世代の家族がこれを引き継いで増やしていくとしても、2TBあるいは3TBあれば十分だという気がします。写真整理ツールの利用価格、購入価格はサービスによって異なりますが、残された家族の負担にならない程度に抑えられるかどうかがポイントになるかと思います。

主な写真整理ツールの比較評価

終活用にも使えるかもしれない、デジタル写真の保存、整理ツールとして、代表的なものを5つ選んでみました。

  1. 「写真」アプリ (Apple)
  2. Googleフォト
  3. Flickr
  4. Lightroom CC
  5. おもいでばこ

それぞれが、終活用の写真整理ツールの10要件をどの程度満たしているかどうかを比較検討してみたいと思います。あらかじめ表にまとめると、次のようになります。

写真アプリ Googleフォト Flickr Lightroom おもいでばこ
整理のしやすさ
フォルダの下にアルバムを収めることができる。ただし、元からあるアルバムを新規フォルダに入れることはできない。

たくさんの写真からベストショットをグルーピングしたり、自動タグ付け、自動アルバム作成などの機能があるが、終活には向いていない。写真検索が強力。

アルバムの上にコレクションを作れるが、スマホとタブレットのアプリでは表示できない。

手作業になるが、複数の階層フォルダとアルバムの設定で写真の整理がしやすい。写真検索が強力。

カレンダーとアルバムで写真を整理。日時情報のない写真がカレンダーに反映されない。アルバム登録がしにくい。写真を階層的に整理できない。
写真編集能力
トリミング、傾き補正、明るさ調整など

トリミング、明るさ調整、フィルタなど

トリミング、テキスト入力、明るさ調整、フィルターなど

トリミング、明るさ調整、Raw現像
×
写真編集機能はない。
使いやすさ
検索しやすい。自動で日時別、場所別、人物別に写真を分類してくれるのは便利。

検索しやすい

表記が英語なので、分かりずらい。

リモコンだけで操作できるので初心者には使いやすい。
汎用性
iPhone、iPad、Macのみ

すべてのデバイスに対応

PCはブラウザのみ、スマホ、タブレットにはアプリ

すべてのデバイスに対応

クラウドではないので、家庭のテレビとハードディスクによる利用がメイン。
持続可能性
世界的にユーザーは多いが、いまだに日本語化されておらず、日本での存続可能性は未知数。

Adobeは写真編集アプリのトップブランドであい、将来的にも存続可能性が高い。

ハードディスクの生産が中止される可能性がある。
共有可能性
写真、アルバムの共有が可能

アルバムの共有が可能

アルバムの共有が可能

写真、アルバムの共有が可能。閲覧者はコメントもできる。

写真の共有は可能。アルバム単位の共有はできない。
安全性(プライバシー)
任意の写真を選択して、ミュージックつきのスライドショーが可能

2段階認証で保護される。ただし、簡単に公開できるため、プライバシーが侵害される心配もある。

Flickrでは、アップロードした写真をプライベート(非公開)に設定することができる。

2段階の認証で安全

ハードディスクに収納されているので安全性は高い
RAW画像の保存、編集 × ×
スライドショーの作成
任意の写真を選択して、ミュージックつきのスライドショーが可能

スライドショーはブラウザ版のみ

ブラウザ版のみ、スライドショーが可能。

スマートフォンとタブレットで、スライドショーが可能。ミュージックはつかない。

スライドショーの種類が豊富。ミュージックを流せるが、楽曲を取り込む必要がある。
容量の大きさ、価格の低廉さ iCloudに保存する場合、
50GBまで¥130
200GBまで¥400
2TBまで¥1,300
15GBまで無料
200GBまで¥380/月
2TBまで¥1,300/月
10TBまで¥6,500/月
20TBまで¥13,000/月
写真1000枚まで無料
有料(容量無制限)
月額プラン$8.49/month
年額プラン$6.67/month

2年プラン$5.99/month

1TBまで¥1,078/月
3TBまで¥2,178/月

20TBまで増設できる

製品の販売価格
PD-2000シリーズ
1TBモデル ¥29,800
2TBモデル ¥42,800
4TBモデル ¥59,800
PD-1000Sシリーズ
1TBモデル ¥24,900
2TBモデル ¥34,800

「写真」アプリ (Apple)


Mac、iPhone、iPadなど、Appleの提供するすべてのデバイスで利用できる写真整理、編集、保存用アプリです。iOS以外のスマートフォンやタブレット、Windows PCには対応していません。写真を自動で日時別に整理してくれる「ライブラリー」は、写真を振り返るのに便利です。ただし、紙焼き写真をデジタル化した場合には撮影日時がないのでライブラリーには自動表示してくれません。これは、あとで述べる「おもいでばこ」のカレンダー機能と同じく、昔の写真も含めて整理する終活ツールとしては問題があります。

写真の分類は「アルバム」で行います。アルバムは「マイアルバム」「ピープルと撮影地」「メディアタイプ」「その他」に分かれています。「ピープルと撮影地」では、写っている人物の写真と撮影場所別の写真を自動で選んでくれますが、終活上の利用価値がどれくらいあるかは疑問です。手動で選択、整理したほうがいいように思えます。アルバムは新規に作成することができます。アルバム名も自由につけることができます。フォルダーを作って、その中に複数のアルバムを入れることもできます。ただし、元からあるアルバムを新規フォルダに入れることはできません。

写真編集機能に関しては、トリミング、傾き補正、明るさ調整、ハイライト、コントラスト、彩度補正など、編集機能は一通り揃っています。なお、iOS12以上のiPhone、iPadでは、RAW画像の編集を行うことができます。

共有可能性については、写真ごとの共有やアルバム単位の共有が可能です。自分で選んだ家族や友人とだけ写真やビデオを共有でき、相手にも写真、ビデオ、コメントを投稿してもらうことができます。これは、他のツールにはみられないメリットといえます。

スライドショーの機能も充実しています。再生したいアルバムを開き、メニューから「スライドショー」を選択すると、スライドショーが始まります。「オプション」でスライドショーのテーマ(トランシジョン)、BGMの音楽、再生のスピードを選ぶことができます。BGMはアップル・ミュージックのアルバム、プレイリスト、曲から指定することができます。

写真アプリに保存できる写真の容量は、デバイスのストレージ容量に依存しますが、保存する写真の量がストレージ容量をこえる場合には、iCloudに保存することになります。その場合は、50GBまでが¥130、200GBまでが¥400、2TBまで¥1,300(月額)という課金がかかります。終活用には最低1TBくらいの容量が必要になりますが、その場合には2TBのプランを選ぶことになるでしょう。将来的に写真が増えていく可能性を考えると、2TB以上のプランがないのは、ちょっと不安です。

終活ツールとしてのメリット、デメリットを評価すると、写真の共有可能性やスライドショーの機能などはすぐれていますが、写真の整理しやすさ、アプリがApple製品以外のデバイスで使えないこと、クラウドの保存容量に制限があること、などの面で問題があると感じられます。

Googleフォト

Googleでは、2004年からPicasaという写真共有サービスを提供していましたが、2016年にPicasaのサービスを停止し、Googleフォトに統合しました。Googleフォトは、写真や動画を保存、編集、共有できるクラウドストレージサービスです。ユーザーはiOSやAndroidアプリ、WindowsやMacのアップローダー、ブラウザなどからクラウドに写真と動画を保存することができます。ツールの汎用性は高いといえるでしょう。

アルバムを作成するには、写真を長押しして+をタップするだけで、簡単です。作成したアルバムはスマートフォンでは「ライブラリー」、ブラウザでは「アルバム」で見ることができます。ただし、自動でアルバムを作成する機能があるため、終活用にはあまり向いていません。他の写真整理ツールのように、アルバムをフォルダなどでグルーピングする機能もないので、写真をきちんと整理するのには不便です。

写真検索の機能は、他のツールとくらべて非常に強力です。写真の埋め込み情報やAI技術をもとに、人物名、 撮影場所、撮影日時、イベント名、対象物を自動検索してくれます。撮影した写真をもとに、対象物を検索してくれる「Googleレンズ」を使うこともできます。このようなAI検索機能は、写真を通して過去の思い出をたどる上では有用なツールだといえます。

写真編集機能は、切り抜き、回転、角度の調整、カラーの補正(コントラスト、ハイライト、彩度など)などがスライドで細かく調整できるので便利です。

写真やアルバムの共有可能性については、写真、アルバム、動画を共有することができます。写真を共有するには、アプリで共有アイコンをクリックし、「共有相手」で、共有したい相手のメール、LINE、SNSなどを指定します。既存のアルバムを共有することもできます。

安全性については、アカウントが2段階認証で保護されるので、安全性は高いといえます。ただし、簡単に共有、公開できるため、プライバシーが侵害されたり、不正アクセスされる心配もあります。共有リンクを不特定多数の人に公開されないようにするなどの対策が必要かもしれません。

Gooleフォトにはスライドショーの機能はありますが、PCのブラウザでしか設定することができません。しかも、スライドショーの再生時間、スピード、背景音楽などを設定することもできません。これでは、スマートフォンやタブレットをスクリーンに投影して故人のお別れ会、偲ぶ会で上映することができません。終活用のツールには適しているといえないでしょう。

以上をまとめると、Googleフォトは写真検索機能が優秀で、写真共有も容易に行うことができ、編集機能もすぐれていますが、アルバムが自動的に作られたり、フォルダにまとめる機能が欠けていることなどから、体系的な写真整理には向いていないように思われます。また、PC以外ではスライドショーができないことも、終活用のツールとしては物足りないところです。

Flickr


Flickrは2004年にカナダでサービスを開始した写真共有サイトです。2005年に米Yahoo!によって買収され、2018年にはSmugMug社によって買収されました。それまでの1TBまで無料のプランが廃止され、有料のProプランの料金についても値上げを繰り返しています。それでも、世界最大級の写真共有サイトであり、多くのすぐれた写真が公開されており、世界中の多くの写真愛好家によって利用されています。テーマ別のグループが多数つくられており、写真コミュニティを通じての交流も活発に行われています。

Flickrにアップロードした画像は、「フォトストリーム」に順次保存されます。すべてのフォトストリームは、一覧表示、スライドショー、「詳細」表示、日付付きアーカイブとして表示することができます。ユーザーは、アップロードした画像にタイトルや説明を付けることができ、画像にタグを付けることも、他のユーザーによってタグ付けされることもできます。

ユーザーは、Flickr の写真を「アルバム」に整理することができます。これは、従来のフォルダベースのファイル整理方法よりも柔軟性があり、1 枚の写真が 1 つのアルバムに属することも、多数のアルバムに属することも、まったく属さないことも可能です。アルバムは「コレクション」に整理することができ、それ自体はさらに高次のコレクションに整理することができます。ただし、コレクションの整理はPCのブラウザだけしか行えず、スマートフォンやタブレットでコレクションを閲覧することはできません。

汎用性については、2019年から従来のPCブラウザだけのサービスから、スマートフォンやタブレットのアプリも公開されるようになり、使える範囲は大幅に広がりました。アプリの使い勝手も、Googleフォトや「写真」アプリ並みの使いやすい仕様になっています。

写真編集機能は、他の写真整理ツールと同様に、切り抜き、回転、角度調整、明るさ調整、ハイライト、コントラスト、彩度調整などの他、PCブラウザ版では写真に文字を入れることもできます。

共有可能性については、他の写真保管ツールと同様に、「共有」(share)ボタンをクリックすれば、メールやSNSを通じて写真またはアルバムをすぐに共有することができます。また、写真の公開については、設定で公開範囲や利用条件を細かく指定することができます。自分の写真を積極的に世界中のユーザーに利用してもらいたい場合には有効だと思います。プライバシーの保護については、しっかりした対策が講じられています。

容量については、無料プランに1000枚までという制限がかかってしまいましたが、有料プラン(Pro)は容量無制限で月額$5.99となっており、他の同種サービスと比べてそれほど高いというわけではありません。ただし、これまで値上げを繰り返してきたことを考えると、今後料金がさらに上がる可能性も否定できません。

スライドショーが再生できるのは、PCのブラウザ版だけです。それも、全画面で単にスライドを連続再生するだけで、トランシジョンや再生速度、時間の設定などもできません。イベント会場などでのスクリーン上演などには向いていません。

以上をまとめると、Flickrは撮影した写真を他者と共有したり、全世界のユーザーに公開したりする場合には適したサービスといえますが、アルバムをコレクションに入れて整理したり、スライドショーを再生する場合にはPCブラウザ版に限定されるなど、モバイルで写真アルバムを持ち出して活用しようと思うと使い勝手が悪いという問題があります。終活用の写真整理、補完ツールとしてはあまり適していないように思われます。

Lightroom CC


Lightroom CCは、写真、動画の編集ツールを多数発売しているAdobe社の提供する写真編集専用アプリです。2007年に最初のLightroomがリリースされましたが、2017年に新たにLightroomモバイルとlightroom CCが発表され、Lightroomがスマートフォンとタブレットでも使えるようになるとともに、Lightroomの写真をすべて専用のクラウドで管理することができるようになりました。従来のPC版Lightroomは”Lightroom Classic”となり、上級者用のソフトとして存続することになりました。終活に適したツールとして本記事で紹介するのは、モバイル&クラウド版の”Lightroom CC”です。こちらは初級者にも使いやすく、すべてのデバイスで利用できるLightroom CCです。

終活用に写真を整理、保存するには、手動で多少手間がかかっても、過去のすべての写真を年月日順に分かりやすい見出しをつけてアルバムに整理し、複数のアルバムを上位のフォルダに仕分けて整理できることが必要です。Lightroom CCは自動で写真やアルバムを整理する機能はあまりありませんが、任意のアルバムを作成して、上位のフォルダに収めることが簡単にできます。必要とあれば、一つのフォルダに複数のサブフォルダを作ることもできます。フォルダ名やアルバム名を数字や名前順に指定すれば、フォルダやアルバムも自動的に数字、名前順に整列してくれるので便利です。手動ではありますが、「写真」アプリ、Googleフォトと同じように、写真やアルバムを時系列的に並べて表示させることができるわけです。これに加えて、Adobe Senseiと呼ばれる強力なAIによって、写真を検索することができます。

写真編集能力の高さは、比較した写真整理ツールの中では最高です。高度の写真編集機能を誇るPhotoshopやLightroomに引けを取らない、きめ細かな写真の編集機能を備えています。編集は原則としてスライドで行うことができるので、直感的な操作が可能です。また、RAW画像の編集に対応し、非破壊編集機能により、繰り返し編集しても画質が劣化しないというメリットもあります。

サービスの持続可能性についていえば、Adobe社は業界トップの画像編集アプリメーカーであり、アプリやクラウドのサービスが近い将来停止される心配はまずないといえるでしょう。

スライドショーは、スマートフォンとタブレットを使って上映することができます。3種類のトランシジョンの中から選ぶことができ、写真の再生時間も調節できます。アプリの中で音楽を選んで再生することはできませんが、スマートフォンに入っている音楽を同時に流すことによってBGMにすることは可能です。

共有可能性については、写真、アルバムを他者と共有することが可能です。閲覧者はコメントを加えることもできます。アルバムごとに共有リンクを取得して、招待者だけがアクセスできるように設定することもできます。

クラウドの容量は、1TBまでが¥1,078/月、3TBまでが¥2,178/月となっており、20TBまで増設することができます。子々孫々まで長期にわたって使い続ける場合にも、容量不足になることはまずないでしょう。

以上をまとめると、Lightroom CCは、終活用の写真整理をする上で、きちんとした写真整理をするのに最適なツールだといえます。写真編集能力も高く、美しい写真アルバムを作成することができると思われます。RAW現像にも対応していることは、将来RAW画像の写真を撮影する機会が増えることを考えると、大きなメリットだといえます。持続可能性、共有可能性、スライドショーの上映機能もあります。写真保存容量も十分です。終活用の写真整理ツールとしては、必要にして十分な機能をもっていると評価することができるでしょう。

おもいでばこ


最後に検討するのは、これまでのクラウドとは違い、家庭のテレビとつないだ専用ハードディスクに写真を保存し、編集、再生するものです。テレビで写真を簡単に楽しめる機器の開発をコンセプトに、2011年にバッファローから発売された小型のハードディスクマシンです。付属のリモコンを操作するだけで、写真の取り込み、アルバムの作成、スライドショーの上映などを行うことができます。パソコンの操作に慣れていない人でも簡単に使いこなすことができることなどもあり、一部の写真整理アドバイザーからは絶賛されています。おもいでばこに取り込んだ写真は、WiFiを通じてパソコン、スマートフォン、タブレットで再生することもできます。また、Googleアカウントと連携すると、自動的にアップロードして、Googleフォトで再生させることもできます。

写真の整理は、基本的にカレンダーとタイムラインで自動的に行われます。ただし、紙焼きをスキャナーでデジタル化したものなど日時情報のついていない写真はカレンダーやタイムラインに反映されないので、すぐに見つけるのが難しいという問題があります。また、紙焼き写真を取り込んだ場合、撮影日時ではなくデジタル化した日付が読み込まれて、誤った日付に写真が表示されるという不具合が発生します。他のクラウドと同じように、複数の写真をアルバム登録することができますが、リモコン操作だとアルバム作成に手間取ります。また、アルバムの上にフォルダなどを作って写真を階層的に整理にすることはできません。

思うような写真整理は難しいものの、リモコンだけで写真を選び、再生することができるので、使いやすさの面ではすぐれていると評価できます。SDカードやUSBメモリに入れた写真を、おもいでばこの機器に直接さし込んで取り込むことができるので、パソコンがなくても写真整理がはかどり、パソコンの知識がない人でも操作することができるというメリットがあります。家族や子どもに向いた機器といえるでしょう。

ハードディスクに写真を収納するためのツールという性格のゆえに、写真編集機能はついていません。パソコンやスマートフォンの写真編集アプリをつかって編集してからおもいでばこに転送するという使い方になります。これは、写真整理ツールを使いながら編集したいという終活の目的からすれば、物足りないところです。

汎用性という面では、家庭のテレビにハードディスクをつないで再生するという使い方からすると、外出先などで多くのデバイスで写真整理、再生をしたいというニーズには応えることは難しいでしょう。アルバムをスマートフォンなどに入れて持ち出すことも可能ですが、外出先でWiFiを使って自由に写真やアルバムを利用できるクラウド的なサービスには対応していません。

持続可能性の面では、災害時の機器損壊やディスククラッシュなど、ハードディスク製品ゆえの脆弱性の問題があります。通常ハードディスクの耐用年数は3〜5年くらいと言われています。これはクラウドサービスなどに比べると、継続的な利用の年数がかなり少ないといわざるを得ません。おもいでばこがいつか生産中止になる可能性もないとはいえず、持続可能性の点で不安は拭えないところです。子々孫々にわたって使い続けられるサービスといえるかどうか、ハードディスク製品の場合には慎重に検討する必要があるでしょう。

スライドショーの種類は他のツールに比べると豊富です。トランシジョン、スピード、音楽なども豊富なメニューから選ぶことができるので便利です。ただし、デフォルト以外の音楽はUSB、SDカードなどから取り込む必要があり、クラウドベースのツールのように音楽配信サービスから自由に選択することはできません。

製品の価格は、最新モデルのPD-2000シリーズをみると、1TBモデル ¥29,800、2TBモデル ¥42,800、4TBモデル ¥59,800となっています。月額料金制のクラウドツールと比べて高いか安いかは一概にはいえませんが、比較の目安として製品の寿命が4年と考えると、月々の料金は1TB¥620、2TB¥890、4TB¥1250となります。クラウド型サービスと比べると若干安いといえるかもしれません。

以上をまとめると、おもいでばこはリモコンの操作だけで写真の整理、再生が行え、写真の取り込みもパソコンを使うことなくSDカードやUSBメモリをさし込むだけで行えるので、使いやすさではすぐれているといえます。また、使いやすいスライドショーも評価できます。ただし、カレンダーやタイムラインでの写真整理、表示はデジタル化した紙焼き写真を多数取り込み場合には、誤表示が多くなり、終活用の写真整理にはあまり向いていません。また、写真編集機能がないこと、ハードディスクの耐久性に欠けることなども、終活用の写真整理、編集、保存ツールとしては物足りないところです。結論として、おもいでばこは家庭で撮りためた比較的最近のデジタル写真を手軽にテレビ画面で楽しむためのツールとしては最適といえるものの、紙焼き写真を含めて、昔から長い間かけて撮りためた大量の写真を階層的、時系列的にきちんと整理、編集し、子々孫々まで末永く受け継いで利用してもらうには、あまり適していないように思われます。

Lightroom CCの使い方

以上、5つの代表的な写真編集、保存ツールを10の要件に沿って比較評価した結果、終活用の写真整理ツールとしてはLightroom CCがもっともすぐれているという結論に達しました。そこで、Lightroom CCを使って終活用に写真整理、編集、共有、保存する方法を筆者の実践経験をもとにくわしく解説したいと思います。

アプリの購入とインストール

dobeは写真、イラスト、映像、ウェブサイトなどの編集、制作に関するさまざまなアプリを発売しています。そのうち、写真整理に使えるのは、Lightroom CC、Lightroom Classic、Photoshopの3つです。「フォトプラン」を契約すると、これら3つのアプリを1TBのクラウドとともにすべて利用することができますが、料金が月額¥2,078(税込み)になります。単体のLightroomプランを契約すると、月額¥1,078(税込み)で1TBのLightroom CCを利用することができます。終活用の写真整理、保存ツールだけの目的で利用するならば、Lightroomプランで十分だと思います。写真にグラフィックスや文字を入れたり、凝ったエフェクトを入れたいという場合には、Pixelmatorなどの低廉な代替アプリを使えばいいでしょう。以下では、1TBのLightroomプランでLightroom CCを使うという前提で話を進めたいと思います。

PCの場合は、次のサイトからLightroomプランを購入することができます。

Creative Cloudアプリのプランと価格

購入すると、同じサイトからアプリをダウンロードすることができます。

iPhoneとiPadはAppストアから、AndroidスマホとタブレットはGoogle Playストアから、Lightroomのアプリをインストールすることができます。スマートフォンとタブレットのLightroomアプリの使い方は基本的にPC版と同じです。異なるのは、PC版と違って、RAW画像で撮影できるカメラの機能がついていることです。これについては、「RAW現像のテクニック」の章で説明します。以下では、PC版のLightroomを中心に詳しい解説をしていきます。

アルバムとフォルダーの作り方

Lightroom CCで写真を整理するときには、「アルバム」または「フォルダー」を作成します。複数の写真を1つのグループにまとめて整理するのがアルバムです。また、数が多くなったアルバムを整理するのがフォルダーで、複数のアルバムやフォルダーをグループ化できます。一つのアルバムには写真しか含めることができませんが、一つのフォルダにはアルバム以外にフォルダやサブフォルダーをいくつでも含めることができます。これによって、写真を階層的に整理することができます。これは、他の写真整理ツールにはない大きなメリットといえます。

Lightroomを起動すると、次のような画面が表示されます。アルバムやフォルダを新規作成するには、画面左の「アルバム」横の「+」ボタンクリックします。

「アルバムを作成」を選んで、新規のアルバム名を入れると、画面左側の「アルバム」の下に「2018.8 ヨーロッパ旅行」という新規アルバムがつくられます。そこで、このアルバムにヨーロッパ旅行の写真を入れます。「アルバム名」をクリックしたあと、「写真を追加」ボタンをクリックするか、またはファイルを直接画面にドラッグすると、このアルバムに写真が取り込まれます。

このようにしてアルバムを作っていくと、写真整理のために、同じようなアルバムを一つのグループにまとめたくなります。そんなときに便利なのが、フォルダです。フォルダは複数の関連するアルバムを収納する「キャビネット」あるいは「引き出し」のようなものです。長い年月の写真記録を収納するキャビネットとしては、後で詳しく述べるように「年」「月」名入りのフォルダが最適だと思います。Googleフォト、おもいでばこ、「写真」アプリなどでも、年月ごとに自動で写真をまとめてくれる機能があります。確かに、一生の思い出を振り返るには、年月の順序で写真を並べ替えるのがもっとも有効です。Lightroomにも、写真のメタデータをもとに日付順に写真を並べ替える機能がありますが、終活で対象とする写真には、昔の紙焼きデータのように撮影日時のメタデータを含まないものが多数含まれていますので、ここではあえて、手動でフォルダーを作成するという方法を採用しようと思います。

上の「2018.8 ヨーロッパ旅行」アルバムの例でいえば、「2018」という名前のフォルダーを作って、このフォルダーに「2018.8 ヨーロッパ旅行」というアルバムを収納することになります。フォルダーを作成する仕方は、アルバムと同じです。画面の+マークをクリックして「フォルダーを作成」を選び、「2018」という名前のフォルダーを作成します。すると、「2018.8 ヨーロッパ旅行」アルバムの上に「2018」というフォルダが作られます。

フォルダーはサブフォルダーを作ることによって、階層構造にすることができます。たとえば、2018という年別フォルダーの下に2018.1という月別フォルダーをつくり、さらに月別フォルダーの下に2018.1.01という日別フォルダーを作ることもできます。1日のうちに複数の写真アルバムを作って収納したいという場合には、こうした細かいサブフォルダーを設定すれば写真を整理する上で有効かもしれません。上にあげた「2018.8 ヨーロッパ旅行」アルバムをこのような3つの階層のフォルダーを作って整理すると、次のようになります。フォルダーの作り方は、「2018」フォルダ名をマウスで右クリックして、「フォルダーを作成」をクリックすれば、新しいフォルダーができますから、この「2018.8」のフォルダーを上の「2008」フォルダーの上にドラッグすると、2008.8フォルダーが2008フォルダーのサブフォルダーになります。同じようにして、2008.8フォルダーの下に2008.8.01というサブフォルダーをつくることもできます。下の画像は、このようにして3つのフォルダーを階層構造にして、2018.8ヨーロッパ旅行のアルバムをこのサブフォルダーに収納したものです。アルバムの収納場所は、アルバム名を任意のフォルダーにドラッグすることで自由に移動することができます。

Lightroom CCでは、以上のようにアルバムとフォルダーを組み合わせることによって膨大な写真を整理することができます。アルバムとフォルダーをどのように組み合わせるか、どのような名前をつけて管理するかは、個人の好みと利用目的によって異なると思いますが、ここでは、終活用の写真整理という目的に絞って、筆者が実際に3万枚余の写真を試行錯誤で整理してみた経験をもとに、新たなコンセプトにもとづいて、Lightroom CCによる写真整理法をご提案したいと思います。

その基本コンセプトというのは、クラウド上の写真を大きく「アーカイブ・フォルダー」と「テーマ・フォルダー」に分けて整理する、というものです。「アーカイブ」というのは、英語のarchiveのことで「大量の資料のコレクション」「コンピュータで、関連する複数のファイルをひとつにまとめて保管すること、またその場所」(日本語大辞典)を意味しています。ひと言でいうと、「大量のデジタル資料がまとめて保管されたコレクション」といえるでしょうか。Googleフォトにも「アーカイブ」の機能がありますが、これはフォトに表示する必要のない写真を一時的に保管しておく場所をさしています。本記事で提案したいのは、Googleフォトのような、単なる写真の一時的保管場所、待避場所といった消極的なアーカイブではありません。まず最初に、保有するすべての写真をオリジナルのままの完全な形で、かつどんなテーマのアルバム制作にも応じられるように整理された形で保管しておく場所をつくろうという提案です。ある意味では、過去のテレビ・ラジオ番組をデジタルシステムで一元的に管理する「NHKアーカイブス」と似ているかもしれません。ちなみに、NHKアーカイブスのコンセプトは、「過去に放送したテレビ番組や映像素材とその関連資料を最新のデジタルシステムで一元的に保管し、貴重な映像資料を次世代へと伝えていく」ことにあります。

アーカイブ・フォルダーは、個人的な写真の生涯にわたるデーターベースの保管庫なので、年月日の名前をつけて、階層的に整理するのが適切でしょう。上の例でも示したように、「2018」(年)、「2018.8」(月)、「2018.01」(日)というように、3階層のフォルダをつくって整理すると、検索も容易になります。Lightroom CCでは、デフォルトでは「タイトル順」にフォルダーが整列されますので、年月日は古い順に自動的に並びますから、アーカイブ内のアルバムを検索する場合には理想的です。アーカイブに保存するアルバム名にも、かならず撮影年月日を最初に入れ、その後に写真のタイトルを入れるようにするといいでしょう。さきほどあげた「2018.8 ヨーロッパ旅行」というアルバム名はその一例です。

アーカイブ・フォルダーはすべての写真とアルバムを入れておく場所なので、クラウドの中ではもっとも大きな容量を占めます。筆者の場合、1TBのうち約250GBを占めています。それ以外の約750GBは、これから増えていく写真と、自分自身や家族などが、テーマ別の写真アルバム(例:お別れ会で上映するスライド集、家族旅行の思い出アルバムなど)を制作するためにアーカイブからコピーした写真のスペースに充てられることになるでしょう。これらは、次に述べる「テーマ・フォルダー」と呼ばれる別のフォルダーに収納するといいと思います。すると、アーカイブ・フォルダーは、できるだけ大きなくくりでまとめて表示する必要があります。「年」のフォルダーを最上位にしておくと、70歳の人であれば、最大70個ものフォルダーがサイドバーに並ぶことになり、一覧性がよくありません。そこで、筆者は最上位のアーカイブ・フォルダーとして「10年」単位の大きなグルーピングとすることにしました。例えば、1950年代生まれの人であれば、
1950年代
1960年代
………….
2010年代
2020年代
というフォルダーを最上位に置くのです。こうすれば、全部で8個のアーカイブ・フォルダーですべてのアルバム、写真を整理することができます。Lightroom CCでは、サブフォルダーはクリック操作で上位フォルダーに折りたたむことができますから、表示行を圧縮することができます。ふだんはアーカイブ・フォルダーを8行表示に縮めておけば、その下に展開する「テーマ・フォルダー」が見やすくなるでしょう。

アーカイブ・フォルダーには、時間帯別にすべての写真とアルバムが収められています。アルバムには撮影したほぼすべての写真が収納されています。それを残された家族や友人が、思い出を分かち合うためにすべて見るということはないでしょう。そんな時間的余裕もないし、興味も持てないでしょう。必要なのは、このアーカイブの中から大事な写真を抜き出して、終活をする本人がぜひ一生の思い出に繰り返し見ておきたい、あるいは将来、残された家族や友人たちに何かの機会に見てもらいたいと思う写真をアルバムとしてまとめておくことではないでしょうか。また、この写真データベースを託された遺族が、折に触れてアーカイブから必要な写真を探して、故人を偲ぶためのアルバムを作成するといったことがあれば、アーカイブ・フォルダーに収納された膨大な写真のアーカイブは、アルバム作りのまたとないリソースとなることでしょう。こうして、終活する本人や家族などがアーカイブをもとに新たにつくるアルバムを収納しておく場所が、「テーマ・フォルダー」と呼ばれるものです。

テーマ・フォルダーに収納するアルバムの一例として、筆者自身の一生の思い出となっている「家族旅行」の思い出アルバムを作ってみましたので、これをご紹介したいと思います。数々の家族旅行の中で、ここでは1990年のシチリア島への新婚旅行を例として取り上げ、テーマ・フォルダーに思い出アルバムを作って見たいと思います(日付などの情報は実際と異なります)。作成の手順は次の通りで、とても簡単です。

  1. 「家族旅行の思い出」という名前のテーマ・フォルダーを作成します。
  2. このフォルダーの下に、「1990.4 シチリア新婚旅行の思い出」という名前のアルバムを作成します。
  3. アーカイブ・フォルダーの「1990」に作ってある新婚旅行についての3つのアルバムを一つずつ開き、「思い出」アルバムに入れたい写真を選択して、「シチリア新婚旅行の思い出」アルバムにドラッグ&ドロップします。ドラッグした写真は自動的に新しいアルバムにコピーされます。もとのアルバムの写真はそのままで削除されることはありません。

このようにして、アーカイブ・フォルダのアルバムから新しいテーマ・フォルダのアルバムに写真をドラッグするだけで、新規アルバムが完成してしまいます。いわゆるコピー&ペーストや一時的なファイル保存などのわずらわしい手間も省けますから、終活する本人だけではなく、パソコンに弱い家族でも簡単にいろいろなテーマの思い出アルバムを作成することができます。

テーマ・フォルダーのアルバムづくりは、終活する本人にとっても、残された家族にとっても楽しい作業になるはずです。撮りためて半ばほったらかし状態にある膨大な写真の中から、なつかしい珠玉のような写真を見つけ出し、撮影当時の思い出をたどりながら、ふさわしいタイトルをつけたアルバムを制作するのです。アルバムにどんな写真を含めるか、ストーリーを考えながら作っていけば、それは自分の一生を振り返るいい機会にもなることでしょう。

写真の編集

アーカイブ・フォルダーにこれまでのすべての写真を保存し終わったら、次にするべき作業は、写真の編集です。編集の主な目的は、「デジタル化した昔の紙焼き写真の汚れ、白い枠、色あせなどの修正」「適正なサイズへのトリミング、傾きの補正、画面の回転、歪みの補正」「明るさ、彩度、コントラスト、ハイライト、シャドウなどの画質補正」「修復、ぼかし、ブラシ、フィルター」を施すことです。Lightroom CCには、これらの機能が高度に備わっていて、簡単な操作で手持ちの写真を驚くほど鮮やかに蘇らせてくれます。

デジタル化した手焼き写真の補正

ある程度の高齢者が終活でLightroom CCを使って写真を整理する場合に問題となるのは、若い頃の写真が紙焼き写真で、そのままの形ではLightroomに読み込めないということです。ネガフィルムやスライドがあれば、業者に頼んでデジタル化することができますが、紙の写真しかない場合には、スキャナーを使ってデジタル化することになります。現在では、品質を落とさずにデジタル化してくれる写真専用のスキャナーも各社から発売されています。詳しくは関連ページを検索してご覧になってください。

筆者が紙焼き写真のデジタル化にあたって利用したのは、Omoidoriという写真専用スキャナーでした。これは、アルバムの写真をはがすことなく、スキャナーを写真の上に置いてスイッチを入れるだけで、美しい写真の画像を撮影することのできる製品です。若い頃の写真は、ほとんどすべて、このスキャナーでデジタル化しました。問題といえば、写真の周囲の枠や黄色がかったテープがそのまま画面に映り込んでしまうという点でした。このような余計な部分は、Lightroom CCの編集機能を使えば簡単に補正することができます。また、昔の写真はセピアに変色していたり、露出値が適正でなかったりします。たとえスキャナーでデジタル化した写真であっても、Lightroom CCで美しい画像に補正することができます。

切り抜き、傾き補正、回転

他の写真整理ツールと同じように、Lightroom CCにも、切り抜き、傾き補正、回転の編集機能が備わっています。白い縁のついた昔の紙焼き写真や角に黄色いテープ跡のついた写真などは、切り抜きツールでトリミングすると、デジタル写真らしくなります。また、写真の傾きも編集ツールで簡単に補正することができます(下の2枚の写真を参照)。一部の縦長写真は、LightroomCCではヨコ向きに表示されることがあります。その場合には、「回転」ツールで90度回転させて、他の横長の写真と向きを揃えてあげる必要があります。

明るさ(ライト)の補正

Lightroomでは、次の6項目に分けて、写真の明るさを補正することができます。明るさがいちばん大きく変わるのは「露光量」による補正です。コントラストを上げると、くっきりした写真になります。ハイライトをプラスに補正すると、明るい部分の明るさが増してメリハリのある写真になります。シャドウをプラスに補正すると、黒くつぶれた部分が明るくなります。白レベルをプラスに補正すると、白をくっきりとさせたり、白飛びを抑えることができます。黒レベルをプラスに補正すると、暗い部分や黒くつぶれた部分を軽減することができます。

露光量 写真の明るさを調整します。
コントラスト 中間の明暗の差を調整します。
ハイライト 明るい部分の明るさを調整します。
シャドウ 暗い部分の明るさを調整します。
白レベル 写真のもっとも明るい部分の明るさを調整します。
黒レベル 写真のもっとも暗い部分の明るさを調整します。
トーンカーブ トーンカーブでは、写真の階調範囲(濃淡)とコントラストをより詳細に制御できます。

カラーの補正

ホワイトバランスは、太陽光、白熱光、蛍光灯、日陰など光源に応じて正しい白色が得られるようにカラーを補正します。色温度は、光源の色温度の大きさに応じて、対象の青みや赤みを調整します。色かぶりは、光源による色味の偏りを補正し、グリーン系とマゼンダ系の色かぶりを調整します。彩度は、写真全体の鮮やかさを補正し、自然の彩度は、とくに彩度の低い部分が鮮やかになるように補正します。

テクスチャ テクスチャは、質感の強弱をコントロールする機能です。肌のキメ、樹皮、頭髪のような中精細度のディテールを際立たせたり、平滑化することができます。
明瞭度 プラスにしていくと、メリハリのある描写になります。コントラストに比べ、白とびや黒つぶれが目立ちません。
かすみの除去 空気中の水蒸気などでかすんだ遠景をクリアにする機能です。数値をプラス側にすると、クリアで濃い色の描写になります。数値をマイナス側にすると、かすみがかかったような描写になります。
周辺光量補正 画面の四隅を黒くしたり白くしたりして、中心部に視線を集める効果をもたらします。
粒子 粒子は、フィルムの粒状感に似た表現を与える機能です。数値を上げると、ザラザラした粒子状の写真になります。

ジオメトリ

Uprightは、広角レンズで建物を撮影したときに生じる傾きを補正してくれるツールです。下の写真は、新宿新都心の高層ビル群の写真です。16mmの広角レンズで撮影したため、建物が傾いています。これをUprightで補正してみました。「ガイドつき」でガイドツールを使って建物の壁に沿って2本の線を引くと、ビルの壁が垂直に補正されました。「垂直」を選ぶと、一発で補正してくれます。

Upright 建物などの傾きを修正してくれる機能です。カメラの「あおり撮影」と同じような効果が得られます。「ガイドつき」「自動」「レベル」「垂直方向」を使い分けることができます。
ゆがみ 画像をゆがませる
垂直方向 垂直方向の線が多くある画像のゆがみを補正します。
水平方向 水平方向の遠近感のゆがみを補正します。
回転 画像を回転させる
縦横比 写真の縦横比を変える
拡大・縮小 写真を拡大、縮小する

修復ブラシ

修復ブラシは、不要なオブジェクトをペイントし、それから、写真の別の部分の情報を利用してクローンを作成したり、目ざわりなものを修復したりして、不要物を取り除く働きをします。例として、下の紫の花びらの赤く枯れた部分を除去してきれいに見せたいと思います。

「修復ブラシ」ツールを選択し、「サイズ」と「ぼかし」を適切な大きさに変更します。そして、カーソルで修復したい部分(花びらの赤い部分)をなぞります。すると、近傍の類似箇所から花びらの色がコピーされて、赤い部分が紫の花びらと同色に置き換えられます。これを、他の赤い花びらの部分でも繰り返すと、下の写真のようになり、紫のジャカランダの花びらが美しく変身します。

プリセットの使い方

Lightroomの「プリセット」とは、露光量、ハイライト、シャドウ、彩度などの数値をxmp形式のファイルに保存したもので、これを読み込むことで、既存の編集スタイルをワンクリックで自分の写真に反映させることができます。プリセットは自分で設定した編集スタイルを保存して、他の写真に適用することもできますし、プロのカメラマンなどが提供するプリセットをインポートして、自分の写真に適用させることもできます。前者の場合は、手間をかけずに自分好みの写真スタイルを多くの写真に適用することができるので、省力化になります。後者の場合は、プロの編集ノウハウを自分の写真で実現することができるので、場合によっては写真の質を高めることができます。プリセットには無料のものと有料のものがあります。はじめは、人気の高い無料のプリセットをインストールしてためしてみるといいでしょう。

Lightroom CC (2022年版)でプリセットを読み込む方法は、次の通りです。

  1. 「ファイル」→「プロファイルとプリセットを読み込み」をクリック
  2. .xmpファイルを読み込み
  3. Lightroom CC編集画面の「プリセット」ボタンをクリックする
  4. 「テーマ:都市建築」のプリセットを選ぶ
  5. 9種類のプリセットから好きなものを選び、「適用量」を調整する

UA09というプリセットが気に入ったので、カーソルをここに持っていき、適用量を調整しました。その結果、元のパリ市街の写真(左側)が、右側の写真のようになりました。初めの写真とはずいぶん印象が変わり、くっきりと深みのある写真になりました。

写真の共有

Lightroom CCは、整理した写真やアルバムを家族や友人や会合参加者などと簡単な操作で共有するツールをいろいろと用意しています。

写真を共有するには、写真をクリックした状態で、共有ボタンを押し、リンクを取得するか、または招待先のメールアドレスを入力します。「誰でも可能」を指定すれば、リンクを開いた人はだれでも写真を見ることができます。「招待者のみ」を指定すると、メールアドレスで指定した人だけがリンクを開くことができます。

アルバムを共有する方法は二つあります。ひとつは、Lightroom CCのクラウドに作成、保存したアルバムを他者と共有する方法です。アルバムを開き、共有したい写真をすべて選択した状態で共有ボタンをクリックします。その後は写真共有の場合と同じです。招待先のメールドレスを入力すると、メールアドレスでアルバムのリンクが送られますから、相手はそのリンクをクリックすると、アルバムの選択した写真をすべて見ることができます。

もう一つの方法は、アルバムを共有してWebギャラリーとして公開する方法です。リンクを取得するときに、「誰でも可能」にチェックしておけばこのアルバムは公開状態になり、Webギャラリーにアクセスした人は、だれでも閲覧することができます。たとえば、下のURLは筆者がWebギャラリーで公開したジャカランダのアルバムです。

https://adobe.ly/3BE8DIu

このように、Lightroom CCに保存した写真やアルバムは、リンクを取得することによって、特定の相手や不特定多数の人びとと共有することが容易にできます。モバイルのLightroomとスマートフォンのカメラがあれば、お別れ会の模様を会場でLightroomのアルバムとして保存し、参加者のメールアドレスにリンクを送ることによって、すぐに共有するといったこともできます。

スライドショー

思い出をみんなで共有するためのいちばん有効な方法は、大画面テレビやモニターでスライドショーを上映することではないでしょうか。多くの写真整理ツールには、スライドショーの機能が用意されています。「写真」アプリ、Googleフォト、Flickr、おもいでばこなどはその例です。Lightroom CCにもスライドショーの機能があります。アルバムを作成すると、そのアルバムに含まれる写真を連続でスライドショーとして再生することができます。ただし、スライドショーができるのは、モバイル版(スマートフォンとタブレット)のLightroomに限られます。

「スライドショーを開始」ボタンをタップし、オプションメニューを開くと、切り替え効果(トランシジョン)を「クロスフェード」「ワイプ」「反転」の中から選ぶことがpできます。また、再生スピードをスライドで調整することができます。残念ながら、BGMの音楽を選択する機能はありません。音楽を同時に流すには、音楽再生アプリを別途立ちあげて、好きな音楽を再生させることが必要になります。

モバイル版Lightroom CC

Lightroom CCはクラウドベースのアプリのため、スマートフォンやタブレットとも同期して使うことができます。PC版のアプリで作った写真アルバムには、モバイル版のLightroomからもアクセスすることができます。また、モバイル版のLightroomでもPC版と同様の操作で写真やアルバムを作成、保存することができます。スマートフォンのLightroomにはRAW画像による撮影機能も備えています。

アプリのインストール

モバイル版のLightroomアプリは、iPhoneはApp Storeから、AndroidはGoogle Playストアからインストールすることができます。

Lightroom App Store
Lightroom Google Playストア

アルバム、フォルダーの作成

iPhone版の場合、ライブラリーを開くと、「アルバム」が表示されますが、もしフォルダーを作っていれば、フォルダのリストが並びます。筆者の場合には、「1940年代」から10年ごとのフォルダーのリストが並んでいます。どれかをクリックすると、サブフォルダーまたはアルバムが開きます。フォルダーやアルバムを作成するには、画面右上の+をタップしてアルバム名またはフォルダー名を入れます。ただし、iPhoneアプリでは「フォルダー」という名前は表示されず、「アルバム」と同じ表記になります。

写真の追加

iPhone版のLightroom CCに新しく写真を追加するには、「写真」アプリなどに入っている写真をLightroomに取り込むか、または、Lightroomに新規アルバムを作成して、そこに写真を追加するかのいずれかがあります。

iPhoneで撮った写真は「写真」アプリに自動保存されます。そのなかから、Lightroomに保存したい写真を選択して、共有ボタンをタップすれば、選択した写真がLightroomの「最新追加した写真」のアルバムに保存されます。

続いて、Lightroomアプリの「最近追加した写真」を開き、アルバムに入れたい写真を選択します。そして、画面右下の「追加先」ボタンをタップします。保存先の画面で、追加したいフォルダー(2022)をタップします。保存したいアルバムがあれば、このアルバムを選択します。新規でアルバムをつくり、そこに保存したい場合には、画面右上の+マークをタップして新規ファイルを作成します。ここでは、「道後温泉」という名前のアルバムを新規作成しました。すると、「2022」フォルダー内に「道後温泉」というアルバムが作成されます。最後に、画面右上の「追加」ボタンをタップすれば、「道後温泉」のアルバムに5枚の写真が追加されます。

RAW写真の撮影

モバイル版のLightroomでは、写真を取り込むだけではなく、アプリのカメラを使ってRAW画像で撮影して保存することができます。アプリ内カメラでは、各種の設定をすることが可能です。詳しくは、Adobeの説明ページをごらんください。

Lightroomカメラの使い方解説(Adobe)

Lightroomのカメラを使うと、撮影した写真は自動的に Lightroom mobile に追加されるため、モバイル端末で撮影した写真をカメラロールから Lightroom mobile に読み込む手間がなくなります。また、細かい設定をすることによって、思い通りの写真を撮ることができます。Adobe DNG形式のRAW写真を撮影することができますから、Lightroomが特異とする高品位のRAW現像を楽しむことができます。

共有の方法

モバイルLightrroomでは、PC版と同じように、写真のリンクを取得して、特定の相手や不特定多数の人びとと共有することができます。それに加えて、ワンタッチでFacebook、Twitter、Instagram、LINEなどのSNSに写真を投稿して、メンバーと共有することができます。例として、ロンドンで撮影した写真をTwitterのタイムラインに投稿してみましょう。共有の手順は次のとおりです。

  1. ロンドン・ブリッジの写真を開く
  2. 右上の共有マークをタップする
  3. 「共有先」をタップする
  4. Twitterアイコンをタップする
  5. Twitterの投稿画面に説明文を付け加え、「ツィートする」をタップする。
  6. Twitterのタイムラインで投稿を確認する。

AIによる写真検索

終活する本人あるいは家族が数万枚にものぼるLightroomのアーカイブの中から写真をピックアップして、さまざまな「思い出アルバム」(テーマ)を作る場合、大いに役立つのが、AIを駆使したLightroomの画像検索技術です。Adobe Senseiと呼ばれる画像認識と機械学習によって写真のコンテンツを認識し、画像検索がいままでよりもすばやく便利になります。事前にキーワードを登録していなくてもコンテンツを特定し、山や海などの風景や地名、人物ごとに検索することができます。

AI画像検索の威力を知るために、筆者がアーカイブに保存した30000枚余の写真をもとに、写真検索を行ってみたいと思います。デバイスとしては、iPhone版のLightroomを用いています。検索をするときは、Lightroomのライブラリ画面のいちばん上にある「すべての写真」を開き、検索窓にキーワードを入れます。

ここでは、思い出アルバムを作る材料となるような写真を検索することにします。筆者の長い人生の中でも、楽しかった思い出に関わるキーワードとして、「食事」「鉄道」「動物園」「パリ」「イタリア」「登山」「海」「パーティ」を入れてみました。検索結果はどれも興味深いものでした。例えば、「食事」「鉄道」「動物園」「パリ」の検索結果は、下の画像のようになっています。

AIのおかげで、あちこちに散らばっている同じテーマの写真を一つの画面で見ることができるようになりました。新しいテーマの思い出アルバムを作成する際に役立つでしょう。

おわりに

いかがでしょうか。写真整理の終活は、長い人生を振りかえり、貴重なものとそうでないものを仕分けて、あとに残された家族が使いやすいような形で整理することです。Lightroom CCを用いた写真整理は、他のツールと比べて、自動で整理する部分は少ないですが、自分で年月日別のフォルダーを作って、その下に写真アルバムを作って収納するという手作業は、多少の手間と時間はかかりますが、整理しながら人生の思い出をたどることができるので、まさに「終活」の名にふさわしい、楽しい作業です。撮影日時や位置情報などのメタデータを含まない古い手焼き写真もきちんと時間順、場所別に整理することができます。今回の記事で紹介した筆者自身のLightroom CC整理事例にかかった時間は、古い紙焼き写真のデジタル化を含めると、写真約30,000枚で2ヶ月ほどでした。現役で仕事をもっていらっしゃる方だともう少し時間がかかるかもしれませんが、「写真による人生の総括」「後世に残すアーカイブ」だと思えば、有益な時間になることでしょう。本記事が、そのための一助となれば幸いです。