Google検索は、今まさに大きな転換点を迎えています。
新たに発表された「AIモード」により、ユーザーは複数のサイトを行き来することなく、AIが生成した要約だけで満足する──。そんな検索体験が、現実のものになろうとしています。
コンテンツが読まれにくくなる時代に、マーケターやライターはどう向き合えばよいのか。
本記事では、「AIモード」の概要と「LLMO(大規模言語モデル最適化)」という新たな潮流を整理しながら、そうした変化のなかでも変わらない「本質」について、改めて考えていきます。
目次
Google AIモードとは?
Google AIモードは、2025年5月に発表された、まったく新しい検索機能です。上の公式動画が分かりやすいので、ぜひ一度ご覧ください。
従来と異なるのは、検索画面に「AIモード」というタブが追加される点です。AIモードを選択し、例えば「渋谷で23時以降に営業していて、1人でも入りやすい焼き鳥屋」といった長文の質問を入力すると、AIが一度で包括的な回答を出力してくれます。
これまでは、「渋谷 1人 焼き鳥屋」「渋谷 23時以降 焼き鳥」など、キーワードを細分化して検索し、いくつかのWebサイトを確認する必要がありました。それが、一回のラリーで完結するようになるわけです。
現在も検索結果の最上部に「AIによる概要(AI Overviews)」が表示されますが、AIモードではそれが全画面にわたって、より詳細に展開されるイメージです。
なお、現時点(2025年6月)ではアメリカとインドでのみリリースされており、日本でも今後、順次対応が進むものと見られます。
従来とは「まったく異なる」検索体験になる
Google AIモードでは、検索結果(SERPs)がAIによる回答文に置き換わり、従来のように青字リンクが10個並ぶページは表示されません。
AIの回答文には、参照元となったWebサイトへのリンクがいくつか添えられています。ただし、それらは目立つ形ではなく、あくまで「出典」として補足的に掲載されるのみです。
しかも、ユーザーがAIの回答だけで満足してしまえば、たとえ自社サイトのリンクが含まれていたとしても、わざわざクリックされる可能性は低いでしょう。さらに厄介なのは、そもそもAIに引用されなければ、サイト自体がユーザーの目に触れることすらないという点です。
実際に起きている「検索トラフィックの減少」
実際、AI Overviewsの導入以降、検索経由のアクセスが減ったという声が、複数のメディアや個人サイトから上がっています。
Ahrefs(SEO分析ツールで世界的に知られる企業)が2025年4月に発表した、30万件のキーワードを対象とした調査によると、AI Overviewsが表示されるキーワードでは、上位表示されたページのクリック率(CTR)が平均34.5%も低下していることが明らかになりました。
つまり、ユーザーが検索結果ページに表示されたAIの回答で満足し、Webサイトにアクセスする前に情報収集を完結させている、ということです。
こうした「検索体験の変化」は、すでに日本でも見られ始めており、今後AIモードが全面展開されれば、トラフィックの減少傾向はさらに加速する可能性があります。
LLMO(大規模言語モデル最適化)という新しい考え方
そこで注目されているのが「LLMO(Large Language Model Optimization)」という考え方です。
LLMOとは、その名のとおり「大規模言語モデル(LLM)に最適化(Optimization)すること」。つまり、生成AIに自社コンテンツを「引用してもらう」ことを目的とした設計やライティング手法を指します。
SEO(Search Engine Optimization)に代わる「AI時代の検索対策」として語られることもありますが、あくまでマーケティング業界やSEO事業者が打ち出した造語であり、Googleが公式に定義しているわけではありません。
今後、このLLMOという概念がどこまで本格的に浸透するのか。あるいは、過度に最適化されたLLMOコンテンツが、かえって検索体験の劣化を招く可能性はないのか。まだ多くの点で不透明ですが、検索のあり方が変わるなかで、新たな試行錯誤が始まっているのは確かです。

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LLMOの「対策例」とされている手法
LLMOでは、生成AIに「引用されやすい構造」を意識してコンテンツを設計することが提唱されています。代表的な対策は次のとおりです。
-
階層構造や要約性を強化
見出しや小見出しを整理し、情報が論理的にまとまっていることをAIに伝える -
AIが抜き出しやすい記述スタイルの採用
箇条書きやQ&A、How-to形式など、AIによって抜き出されやすい記述スタイルを採用する -
E-E-A-Tの明示的な強化
Experience(実体験)や Expertise(専門知識)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)を示す情報を本文に追加し、AIに引用しやすくする -
構造化データの活用
FAQスキーマや製品情報などの構造化マークアップを埋め込んでAIが理解しやすいようにする -
信頼できる引用やデータの明記
統計や引用部分を明示し、AIが「この情報を引用しやすい」と判断しやすくする
ただし、これらは従来のSEO施策と重なる部分が多いです。たとえば、見出しの整理や構造化データの対応、E-E-A-Tの強化といった対策は、以前からSEOでも推奨されていますよね。
つまり、LLMOという言葉は新しく見えて、やっていることの多くは従来のSEOの延長にすぎないというのが実態です。
Googleの答えは、あくまで「基本に忠実に」
実際Googleも、AIモードやAI Overviewsに対し、「特別な最適化は必要ない」と明言しています。
つまり、言葉がひとり歩きをしている「LLMO対策」に飛びつくよりも、従来のベストプラクティスに忠実であることが、もっとも確実な道と言えそうです。
冷静に捉えたい、LLMOという発想の限界
SEOの世界も長らくブラックボックスでしたが、それでも試行錯誤の中で「成果につながりやすい型」は蓄積されてきました。
一方、LLMOは自己学習型のAIを対象としており、その学習データや仕組みも動的で、何がどのように学ばれているかを把握することは困難です。
つまり、今日通用した正解が、明日には通用しなくなる可能性もある。不確実性の高い取り組みであることは、あらかじめ理解しておくべきでしょう。
それゆえ、目新しい概念や手法に過度な期待を寄せすぎず、「今大注目のLLMO!」「AIに引用される記事!」といった言葉に踊らされない冷静な判断が求められます。
AI時代のコンテンツに求められる姿勢
AIが生成する概要や回答が検索結果の中心になりつつある今、自分で経験することも考えることもせず、ただ情報を並べただけの記事が通用しなくなるのは、もはや時間の問題です。
こうした時代だからこそ、目先の手法に振り回されるのではなく、本質的な視点からコンテンツと向き合う姿勢がより一層求められます。
この章では、以下の3つの観点から、AI時代におけるコンテンツとの向き合い方を整理してみます。
小手先の「最適化」がもたらした弊害
かつてのSEOでは、「キーワードの詰め込み」や「文字数の多さ」といった形式的な指標ばかりが重視され、実態をともなわない質の低いコンテンツが検索結果にあふれました。
そして今、LLMOという新たな概念のもと、「ユーザーのためになるか」よりも「AIに引用されやすいか」という視点が優先されはじめているのです。
このままでは、またしても「誰のために書かれたのか分からない」コンテンツが増え、同じ過ちを繰り返すことになりかねません。
「誰のために書くのか」という視点を取り戻す
検索で上位を取ることや、AIに引用されることが目的になると、「誰のために書くのか」という根本的な視点が、いつのまにか置き去りにされてしまいます。
本来、コンテンツは「読者の課題を解決するもの」であるべきです。最適化はあくまで手段であって、目的ではありません。
プラットフォームやアルゴリズムに迎合するのではなく、「読者の役に立つかどうか」だけを考える。この本質に、いま一度立ち返る必要があるのではないでしょうか。
取材や経験が、より差別化のポイントに
「〇〇とは?」「おすすめ〇選」といった、いわゆるKnowクエリに応えるコンテンツは、徐々にAIに置き換えられつつあります。キュレーション記事や情報のまとめ系は、今後さらに価値を失っていくでしょう。
一方で、現地に足を運んで得た一次情報や、自らの体験に基づくコンテンツは、AIには真似できない領域です。
たとえば不動産の記事であれば、実際に街を歩いたからこそ見えてくる生活動線、再開発の進み具合、空きテナントの様子、住民の生の声──そうした情報はネット上には存在せず、AIが拾うこともできません。
AIにできるのは、あくまで既存の情報を収集し、再構成するところまで。だからこそ、「足で稼ぎ、自分の頭で考えて書く」ことができる人のコンテンツは、これからますます価値を高めていくはずです。
そして皮肉なことに、そうして丁寧に作り込まれたコンテンツこそが、AIに引用されやすくなり、結果としてLLMOのような仕組みにも適応していくのではないでしょうか。
こうした変化は、表層的な情報に頼らず、地道にコンテンツと向き合ってきたクリエイターにとって、むしろ追い風になると感じています。
まとめ
AIモードの登場によって、Google検索はかつてない転換期を迎えています。
ユーザーはリンクを辿ることなくAIの回答だけで満足し、多くのコンテンツが「読まれないまま終わる」リスクが現実味を帯びてきました。
こうした変化に対応する手法として、LLMOが注目されていますが、その多くは従来のSEOと大差ありません。キャッチーな言葉に飛びつく前に、「なぜ書くのか」「誰に届けるのか」といった本質に立ち返る姿勢こそ、いま強く求められているように感じます。
AI時代においては、足を使って情報を集め、自らの視点で調べ、考え抜いたコンテンツこそが、AIには決して真似できない「確かな強み」になるはずです。
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