ChatGPTと会話していて、「やたら肯定してくるな……」と感じたことはありませんか?
その優しさの裏には、AIの設計思想や学習の仕組み、そして私たち自身の思考パターンが潜んでいます。
本記事では、ChatGPTがなぜ「イエスマン」のように振る舞うのか、その背景と、AI時代に必要な前提思考について掘り下げていきます。
目次
ChatGPTはなぜ「イエスマン」なのか?
ChatGPTとの過去ログ。驚くほどの「おっしゃる通り」の数
「いいですね」「おっしゃる通りです」と、ChatGPTからおべっかされる度に、「さすがにイエスマンすぎない?」と違和感を抱いていました。試しに過去の会話ログを検索してみたところ、「おっしゃる通り」というフレーズが驚くほどの頻度で登場。どうやら、気のせいではなかったようです。
いったいなぜ、ChatGPTはここまで同調的なのでしょうか。まずはその理由を分析してみます。
「多様な価値観を尊重する」設計思想だから
OpenAIはChatGPTの設計について、次のように説明しています。
We designed ChatGPT’s default personality to reflect our mission and be useful, supportive, and respectful of different values and experience.
この文言が示すとおり、ChatGPTは「有用で」「支援的」であり、「多様な価値観を尊重する」態度をとるように設計されています。そのため、ユーザーの主張に対して反論を避け、共感や肯定を前提とした応答が優先されがちです。
言い換えれば、「争わず、寄り添うAI」という理想像が、結果的に「イエスマン」的な性格を帯びる一因となっていると考えられます。
ユーザーの反応が「イエスマン」を育てるから
ChatGPTは、「強化学習(RLHF)」というシステムによって、人間からのフィードバックをもとに応答の質を調整しています。たとえば、ユーザーが「ありがとう」や「いいね」と返したり、会話が長く続いたりすると、そうしたやり取りが「好ましい応答」として学習される仕組みです。
そもそも人間は、自分の意見に共感してくれる相手に好感を抱きやすいもの。それは誰しも感じたことがあるのではないでしょうか。こうした心理とAIの学習メカニズムが重なることで、「ユーザーが喜ぶ応答」が強化されやすくなり、結果としてChatGPTが「イエスマン」のように振る舞う構造が生まれていると言えそうです。
人間にも「偏った情報」を求めるクセがあるから
質問のしかたひとつで、応答の内容も大きく変わってきます。たとえば、「○○のメリットは?」と尋ねればメリットのみを、「○○のデメリットは?」と聞けばデメリットのみを返す──。一見すると自然に思えますが、実際には「片側の情報」だけが示されている可能性があるのです。
このような傾向は、ジョンズホプキンズ大学による研究でも確認されています。従来型の検索エンジンと比較して、AIはユーザーの立場や意見に沿った情報を優先的に提示し、結果として意見の偏りを助長することが明らかになりました。
背景には、AIがユーザーの意見に同調するよう設計されていることに加え、ユーザー自身も「自分の意見に合う情報だけを求める」という認知バイアス(確証バイアス)を持っていることが影響してると考えられます。
そのため、AIとユーザーの双方が同じ方向に寄ってしまい、ついには情報の偏りや「AIのイエスマン化」が加速しているものと見られます。
ChatGPTはその人の鏡である
Google検索が誰にでもプラスに働いたかというと、そうではありません。検索エンジンが広く浸透したことで、安易に答えを求める、思考しない、検索上位の記事を信じる人が増えました。
Google検索はあくまでも生活や仕事を便利にする「道具」であり、誰が道具を使うかで利便性も有用性も変わってきます。
ChatGPTも同じで、どう質問するか、どう判断するかはその人次第です。結局のところ、賢い人は生成AIを上手に活用するし、そうでない人は馬鹿になっていくだけでしょう。
ChatGPTが「イエスマン」だとわかる実例
ここでは、実際に筆者が「イエスマンすぎるな…」と感じたやり取りを、いくつか紹介します。
ケース1:間違った前提でも否定せず説明を始める
筆者がとあるWebサービスについての記事構成を、ChatGPTに相談していたときのこと。「最近無料化されたWebサービスの例」として、うっかり有料のサービスを挙げてしまいました。
するとChatGPTは、その前提を疑うことなく「〇年に無料化されました。その背景は~」と、事実と異なる説明を始めたのです。しかも、もっともらしい理由をでっちあげて。
執筆の途中で誤りに気がついたものの、クライアントに納品する予定の記事だっただけに、ヒヤリとさせられる経験でした。
ケース2:ほぼ必ず褒めてくれる
粗い文章を見せたときでさえ、「とても良いですね!」と褒め言葉から入ることが多々あります。もちろん、ネガティブな指摘を避けることで、ユーザーのモチベーションを損なわないよう配慮しているのでしょう。
しかし実際には、構成に無理があったり、表現が冗長だったりと、客観的に見れば明らかな改善点があることも少なくありません。こうした無条件の肯定は、落ち込んでいるときには励みになりますが、アウトプットの質を高めたい場面では注意が必要です。
「褒められた=問題ない」と受け止めてしまうと、改善のチャンスを逃してしまう恐れがあるからです。
ケース3:コロコロ手のひら返し
筆者が「このアイデア、あんまりよくないよね?」と否定的な問いかけをすると、ChatGPTも「確かに懸念点がありますね」といった調子で同調してきました。
ところがその後、筆者が「やっぱり、これ良いかも」と評価を変えると、ChatGPTもすぐに「良いと思います!」と、さっきまでの否定的な立場をあっさり撤回したのです。
このように意見をコロコロ変えられると、何が正しいのか分からなくなり、かえって判断に迷ってしまうこともあります。アイデア出しやリサーチの段階では非常に便利なツールですが、最終的な判断はやはり自分で下す必要があるなと実感した出来事でした。
あなたも「イエスマンに頼りすぎている」かも?
ここまで読んで、「自分は大丈夫だな」と感じた方もいるでしょう。でも実は、ChatGPTの優しさに、無意識のうちに依存しているケースも少なくないのです。
以下のセルフチェック、あなたはいくつ当てはまりますか?
- AIの回答を疑わず、そのままコピペして使っている
- 「AIが言うなら正しいだろう」と思い込んでしまう
- 自分で考えるべきことも、AIに「丸投げ」している
- AIの回答が自分の意見と違うと、少しモヤっとする
- AIに肯定されないと、不安になったり不満を感じる
いくつか当てはまった方は、AIとの付き合い方を少し見直してみるタイミングかもしれません。では、どうすればAIと「いい距離感」で付き合っていけるのでしょうか。
では、ChatGPTとどう付き合うべきか?
ここからは、ChatGPTを「うまく使う」ための実践的なヒントを3つ紹介します。ポイントは、AIは「すべて誤っている」という前提思考のもと、「人間が判断を下す」ことです。
「疑ってかかる」をデフォルトに
AIの出力に対して、「それ、本当?」と立ち止まるクセをつけましょう。ChatGPTは、事実ではない情報も、それっぽく「でっち上げてくる」ことがあります。
「AIが言ってるから正しい」とは決して思い込まず、すべてを疑うくらいがちょうどいいのです。実際に筆者は、少しでも怪しいと感じたら「ソースは?(情報源)」と聞き返すようにしています。
それでも納得のいく答えが得られない場合は、別途Googleなどで検索し、AIの出力内容が本当に正しいかどうかを確認するようにしています。
「中立的な視点」を引き出すプロンプトの工夫
もう一つ、有効なアプローチが「プロンプトの工夫」です。AIをうまく使いこなすには、「プロンプトがすべて」と言っても過言ではありません。たとえば、「このアイデアどう?」とだけ尋ねると、多くの場合、共感的な返答が返ってくると思います。
しかし、以下のようなプロンプトを添えることで、より多角的なアウトプットが得られるようになります。
- 忖度なしで率直な意見をください
- 反対意見も挙げてください
- デメリットやリスクも教えてください
- 厳しめの視点で評価してください
- 他の選択肢と比較してみてください
ただし、強く指定しすぎると、文脈にそぐわない「逆張り」や、「強引な否定意見」が返ってくることもあります。そのため、出力内容に少しでも違和感を覚えたら、「それ、本当?」と一度立ち止まる姿勢を忘れないようにしましょう。
最終的には、自分で考え、自分で判断する
AIはたしかに便利なツールですが、最終的な判断をすべて任せてしまっては本末転倒です。とくに注意したいのは、思考の丸投げ。AIに慣れすぎると、自分で考える力や情報を取捨選択する力が、少しずつ鈍っていきます。
そして何より、「どの情報をどう使うか」「どう見せるか」といった創造的な判断やセンスこそ、本来は人間が得意とする領域のはずです。たとえば記事執筆では、アイデア出しをAIに任せ、構成や執筆は自分で行い、ブラッシュアップをAIに頼る。そんなふうに役割を分けることで、質とスピードの両立が可能になるかもしれません。
AIの強みと人間の強みをうまく分担し、最終的には自分の頭で考えて判断すること。それが、AI時代をうまく乗りこなすための基本だと思います。
補足:「イエスマン問題」に対するOpenAIの動き
ちなみに、OpenAIは2025年4月に行ったアップデートで、「過度にユーザーに同調する挙動」を抑える方向に調整を行いました。こうした改善は、「イエスマン化」への問題意識が、OpenAI側にもあったことの表れと言えるでしょう。
とはいえ、ChatGPTの出力内容は今もなお、ユーザーの問いかけ方(プロンプト)に大きく左右されます。実際、イエスマン的な応答が完全になくなったわけではありません。そのため、引き続きユーザー側には、「自分で考え、自分で判断する」姿勢が求められそうです。
まとめ
ChatGPTは、知識の補助輪としても、発想のきっかけとしても頼りになる存在です。ただ、同調的な応答に慣れすぎると、「自分で考える」というプロセスが少しずつ希薄になってしまうおそれもあります。
本記事で見てきたように、ChatGPTが「イエスマン」に見える背景には、設計思想や学習の仕組み、さらにはユーザーの認知バイアスなどの要因が複雑に絡み合っています。
それを「最強の相棒」にするのか、「致命的なミスメーカー」にするのか。すべては、使う人の姿勢にかかっています。
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