「情報発信をしたほうが良いのはわかっているが、どこか気が進まない」
お寺の運営にかかわっていると、そのような感覚を抱いたことはないでしょうか。
発信=集客や営業と捉えてしまうと「お寺がやることなのだろうか」と、違和感が生まれるのも自然なことです。
一方で、参拝者の減少や世代交代、地域との関係性の変化を前に「何もしないままで良いのだろうか」と、静かな不安を感じているお寺も少なくありません。
本記事では、元僧侶として実際にお寺の現場や情報発信にかかわってきた経験をもとに、お寺の情報発信を「関係を整える行為」として捉え直す考え方を整理します。
「今のお寺にとって、どの距離感が自然なのか」を考えるための判断材料として、本記事を役立てていただければ幸いです。
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目次
お寺の情報発信は「集めるため」ではなく「関係を整えるため」にある
お寺の情報発信を考える際、多くの場合「人を集めるため」「参拝者を増やすため」という発想が先に浮かびがちです。しかし、その前提で発信を考えてしまうと、言葉や姿勢に無理が生まれやすくなります。
そこでまずは、情報発信を集客として捉える一般的な考え方を起点に、なぜお寺の場合に違和感が生まれやすいのかを整理していきましょう。
情報発信を営業として考えると失敗しやすい
お寺の情報発信がうまくいかなくなる原因の多くは、発信そのものを「営業」や「集客」として捉えてしまう点にあります。
- 人を増やすこと
- 反応を得ること
- 成果を出すこと
これらを前提に考え始めると、言葉の選び方や姿勢だけでなく「お寺らしさ」に対する違和感が生まれやすくなります。本来、お寺は商品やサービスを売り込む場ではありません。
一般的なビジネスの営業手法をそのまま当てはめてしまうと「宣伝している感じがする」「売り込まれているようで落ち着かない」と受け取られてしまうのです。
さらに、営業として発信を考えてしまうと、更新が義務になったり、言葉が硬くなったりしやすくなります。営業の視点で発信を捉えてしまうことで「安心して来てもらうための準備」という本来の目的が見えにくくなってしまうのです。
「知ってもらっている状態」を作ることに価値がある
お寺の情報発信においてまず目指したいのは「必要な時に、きちんと思い出してもらえる状態」を整えておくことです。人は、常にお寺を探しているわけではありません。
しかし、人生の節目や迷い、不安を感じた時に「そういえば、あのお寺があったな」と頭に浮かぶ存在であるかどうかは、大きな違いになります。
この「知ってもらっている状態」は、強い言葉や頻繁な発信で作られるものではありません。境内の様子や行事の空気感、お寺として大切にしている姿勢が、少しずつ伝わることで自然に形づくられていくものです。
つまり、お寺の情報発信は「今すぐ来てもらうため」ではなく「来たいと思った時に、安心して足を運んでもらうための準備」と捉えておくのが良いのです。むしろ、続けられる形で、お寺の空気や考え方を淡々と残していくことにこそ意味があります。
情報発信を見直したいお寺・慎重で良いお寺
お寺の情報発信は、立地や規模、日々の法務の内容、地域や檀家との関係性によって、適切な距離感は大きく異なります。
「発信を強化したほうが良いのだろうか」
「今は、無理に手を広げなくても良いのではないか」
そうした迷いが生まれるのは、お寺の状況や役割がそれぞれ違うからこそです。
ここからは、情報発信を一度立ち止まって見直してみたいお寺と、無理に強化しなくても良いお寺の特徴を整理します。ご自身のお寺が、今どの位置にあるのかを考えるための視点として読み進めてみてください。
情報発信を見直したいお寺の特徴
情報発信を見直したいお寺は「何か特別な施策をしたい」というよりも、お寺の中にすでにあるものが、十分に外へ伝わっていない状態にあることがほとんどです。
例えば、以下のような状況に心当たりがある場合は、一度立ち止まって情報発信のあり方を整理してみる価値があります。
- 行事や法要は行っているが、外部にほとんど情報が出ていない
- 「どんなお寺なのかわからない」と言われた経験がある
- 初めて訪れる方にとって、雰囲気や考え方が事前に伝わりにくい
こうしたお寺の場合、すでに大切に営まれている日常や行事、姿勢が、外から見えにくいだけなのです。そもそも「情報発信を見直す」とは、新しい企画を始めたり、発信量を増やしたりすることではありません。
まずは「今のお寺が、どのように見えているか」「何が伝わっていて、何が伝わっていないのか」を整理することが大切です。
無理に情報発信を強化しなくても良いお寺の特徴
お寺の役割や地域との関係性によっては、無理に発信を広げない判断が自然な場合もあります。例えば、以下のような状況にあるお寺です。
- 檀家や地域との関係性が長く、行事やお知らせが必要な方にはすでに行き届いている
- 外部から人を増やすことが、現状の体制では負担になりやすい
- 静かな距離感や、内輪の関係性を特に大切にしている
こうしたお寺の場合、情報発信を強化することで、かえって負担が増えるだけでなく、今まで大切にしてきた空気感に違和感が生まれてしまう場合もあります。
また「周囲のお寺が発信を始めているから」「何もしないのは不安だから」といった理由だけで動き始めると、発信が義務になり、続かなくなるケースも少なくありません。
情報発信は、やらない選択をしたからといって、間違いになるものではありません。今の関係性が保たれており、無理なく営みが続いているのであれば、現状を大切にする判断もまた、お寺らしい選択の1つです。
お寺の情報発信でよくある失敗
お寺の情報発信が上手くいかない理由でよくあるのは、以下のケースです。
ここからは、実際に多くのお寺で起こりやすい情報発信の失敗例を整理します。「やってはいけないこと」を指摘するためではなく、お寺らしさを保ちながら続けるために、あらかじめ避けておきたいポイントとして確認してみてください。
発信しなさすぎて「存在が見えなくなる」
お寺の情報発信における失敗で、意外に多いのが「ほとんど何も発信していない」状態です。情報発信を怠っているというよりも「余計なことはしないほうが良い」「発信は必要になってからで十分」と考えた結果として起こりやすいものです。
多くの方にとってお寺は、人生の節目や迷い、不安を感じた時に初めて思い出される場所と言えます。思い出した際に、事前に雰囲気や考え方がまったく伝わっていないと「行ってみたい気持ちはあるが、少し不安」という状態が生まれやすくなります。
しかし、発信が少なすぎると「選択肢にすら挙がらない状態」になってしまうことが問題なのです。発信しなさすぎて存在が見えなくなる状態は、お寺らしさを守ろうとした結果、起こってしまうケースも少なくありません。
だからこそ、次の章で触れるような「やりすぎ」との間にある、ちょうど良い位置を探していく視点が大切になります。
やりすぎて違和感が生まれる
情報発信に取り組み始めたお寺で、次に起こりやすいのが「やりすぎてしまう」ケースです。悪意や打算があるわけではなく「せっかく発信するなら、きちんと伝えたい」「反応があったほうが安心する」という、ごく自然な気持ちから生まれるものです。
しかし、発信の量や強さが増えすぎると、見る側にとっては「少し押しが強い」「お寺らしい落ち着きが感じられない」といった違和感につながる場合があります。
情報発信は、目立つための行為ではありません。お寺の場合は特に、静かに続いていることそのものが信頼につながる側面があります。
発信が増えてきたと感じた時ほど「今の発信は、お寺の空気感と合っているか」「無理なく続けられているか」を立ち止まって見直すことが大切です。
個人的な価値観が前に出すぎて誤解を招く
本人としては日々の気づきや正直な思いを綴っているつもりでも、受け取る側との距離感によっては、強い主張として受け止められてしまうことがあります。
お寺という立場から語られる言葉は、個人の発言以上に重みを持って受け取られやすく、意図しない形で「押しつけ」や「断定」と感じられてしまう場合も少なくありません。
お寺の情報発信では、何を語るか以上に「どの立場で語っているか」「誰に向けた言葉なのか」を意識することが大切です。
言葉に迷いが生じた時は「この発信は、初めてこのお寺を知る方が読んでも安心できるか」という視点で読み返してみてください。そのひと呼吸が、誤解を防ぎ、長く信頼される情報発信につながっていきます。
お寺の情報発信を整えるための役割分担
お寺の情報発信を無理なく続けていくためには「何を発信するか」だけでなく「どこで・どの役割として伝えるか」を整理しておくことが欠かせません。
すべてを1つの媒体で伝えようとすると、情報が混在したり発信そのものが負担になったりしやすくなります。
ここからは、お寺の情報発信を整えるうえで意識しておきたい、ホームページ・SNSそれぞれの役割について整理していきます。
ホームページ:公式情報を正確にまとめておく場所
お寺の情報発信を考えるうえで、まず軸として整えておきたいのがホームページです。初めてお寺に触れる方が、まず確認したいのは以下のような点です。
- どのようなお寺なのか
- 行事や法要はどのように行われているのか
- 初めてでも参拝して良い場所なのか
こうした疑問に対し、落ち着いた形で答えを用意しておくことが、ホームページの役割です。なお、ホームページで大切なのは、情報量を増やすことではありません。
正確で古くなっておらず、お寺としての姿勢がブレずに伝わっていることが何より重要です。
一方で、ホームページを「すべてを発信する場」にしてしまうと、更新の負担が大きくなりがちです。日々の出来事や細かな報告まで載せようとすると、発信そのものが重荷になってしまいます。
ホームページは「公式な情報を、安心して確認できる場所」として役割を限定しておくことで、無理なく維持しやすくなります。
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SNS:日々の様子を無理なく伝える場所
SNSは、お寺の情報発信において「詳しく説明する場」ではなく、日々の様子や空気感を、無理のない形で伝えるための場所です。
- 境内の様子
- 行事の準備風景
- 季節の移ろい
こうした断片的な情報は、完璧に説明しなくても構いません。「今、こういう時間が流れている」という雰囲気が、そっと伝われば十分です。
SNSは投稿を見た方に「どんなお寺なのだろう」「少し安心できそうだな」と感じてもらうための入口にあたります。
また、行事の詳細や正式な案内、考え方の整理などは、ホームページに任せてしまって問題ありません。無理なく続けるためには「毎回何か発信しなければ」と考えないことも大切です。
投稿できる時に、境内の様子や日々の気づきを、淡々と残していく積み重ねが、お寺の雰囲気や姿勢を自然に伝えていきます。
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忙しくても続けられる情報発信の整え方
お寺の情報発信について考える際、多くの方がつまずきやすいのが「続けられるかどうか」です。日々の法務や行事、地域との関わりがあるなかで、発信のための時間や余裕を確保するのは簡単ではありません。
しかし、情報発信は「無理をして続けるもの」ではなく、無理なく回る形に整えるものです。
ここからは、忙しいお寺でも現実的に続けやすい情報発信の考え方や整え方について、具体的な視点から整理していきます。発信を義務にしないためのヒントとして、読み進めてみてください。
行事と日々の気づきを無理なく織り交ぜる
行事や法要は、お寺の情報発信として扱いやすい情報です。日時や内容が決まっており、写真も載せやすいため、情報発信の軸として無理なく使えます。
一方で、行事だけに頼ってしまうと、発信の間隔が空きすぎるだけでなく「告知ばかりになってしまう」という悩みが生まれやすくなるため、以下を意識してみてください。
- 行事の準備をしていて感じたこと
- 境内の様子からふと浮かんだ気づき
- 季節の移ろいのなかで感じた空気感
こうした内容は、長い文章や特別な言葉にしなくても構いません。行事の告知や報告に、一言添えるだけでも十分です。
行事だけでも、日常だけでもなく、その両方をバランス良く発信することで、投稿を見ている方からの安心感が生まれやすくなります。無理に頻度を増やそうとせず、行事を軸に日々の一場面をそっと添えるくらいの距離感が、忙しいお寺にとって続けやすい情報発信と言えるでしょう。
テンプレ付き:最低限で回る情報発信を活用する
忙しいお寺にとって、情報発信が続かなくなる1番の原因は「毎回、何を書けば良いかを考えなければならないこと」にあるでしょう。実際、私が情報発信に携わることになった要因も、その大半が発信内容についてでした。
そこでおすすめなのが、あらかじめ「型(テンプレ)」を決めておくことです。例えば、以下のような簡単な形で十分です。
【行事名】を行います
日時:【◯月◯日(◯)◯時〜】
場所:【本堂/境内など】
この行事は【簡単な意味・大切にしていること】を大切にしています
初めての方も【参加可/予約不要/静かにお参りいただけます】
行事案内だけでなく、日々の様子を少し添えるために、以下のような「日常の気づき用テンプレ」を用意しておくのも有効です。
境内で【今日あった出来事】がありました
そこから【ふと感じたこと】があります
また、静かに日常が続いていきます
上記はあくまで一例になります。ぜひ、貴寺の雰囲気に合った情報発信に当てはめてみてください。
住職だけで発信しようとしない
お寺の情報発信が続かなくなる理由として、もう1つ見落とされがちなのが「住職がすべてを担おうとしてしまうこと」です。住職は、日々の法務や行事対応、地域や檀家との関係づくりなど、多くの役割を担っています。
そのなかで、発信内容を考え文章を書き、写真を選び投稿するところまでを1人で抱えてしまうと、どこかで無理が生じます。
情報発信は、必ずしも住職自身の言葉でなければならないものではなく、以下のように役割を分けても問題ありません。
- 行事の写真を撮る人
- 日時や場所を整理して文章にする人
- 投稿作業を行う人
上記のように、役割を小さく分けるだけでも、発信の負担は大きく軽減されます。大切なのは、情報発信を「個人の努力」にしないことです。
住職だけで抱え込まない体制をつくることは、発信を楽にするためだけでなく、お寺の雰囲気が自然ににじみ出る、落ち着いた情報発信につながっていきます。
まとめ
本記事では、お寺の情報発信について「営業や集客として考えない」という視点を軸に、無理なく整えていくための考え方や役割分担について整理してきました。本記事の内容をまとめると、以下のとおりです。
- お寺の情報発信は人を集めるためではなく、関係を整えるための行為
- 情報発信を見直したいお寺・無理に強化しなくても良いお寺は状況によって異なる
- 発信しなさすぎ・やりすぎ・立場を意識しない発信は違和感や誤解につながりやすい
- ホームページは公式情報を受け止める土台、SNSは雰囲気を伝える入口
- 情報発信は努力ではなく、続けられる形に整えることが大切
お寺の情報発信は「何か新しいことを始めなければならない」と考えるほど、かえって重たく感じてしまうものです。一方で、必要な情報が整理され、お寺の空気感や姿勢が無理なく伝わっていれば、必要としている方には自然に届いていきます。
なお、お寺のWebサイトやSNSを含めた情報発信の考え方については、以下の記事でも詳しく整理しています。お寺の立ち位置や体制に合わせて、無理のない距離感を見つけるための参考としてお役立てください。
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