自社の商品やサービスを市場の中で際立たせるには、大きく分けて2つのアプローチがあります。

  1. 安さを売りにする
  2. 他社にない特徴で価値を上げる

この難題を解決する際に役立つのが、今回紹介するバリューチェーン分析です。

原材料の仕入れから社員研修にカスタマーサポートまで、様々な活動を俯瞰的に分析できるフレームワークになっています。正しい活用方法を理解すれば、各活動のパフォーマンスを最適化できるようになるでしょう。

本記事では、バリューチェーン分析のやり方を実例付きで紹介します。無料のテンプレートも配布しているので、ぜひ参考にしてみてください。

バリューチェーン分析とは

支援活動

バリューチェーン分析とは、企業のバリューチェーンの各活動を評価することで「どこに改善点があるか」を理解するフレームワークです。各ステップが最終的に商品やサービスにどのような価値を与えているかを分析します。省略や効率化すべき活動も浮き彫りにできるのが特徴です。

バリューチェーン分析を理解するには、まず「バリューチェーン」という言葉の意味を理解する必要があるでしょう。

バリューチェーン(Value chain)とは?
商品やサービスを作って利用者の手に届くまでの全プロセスを意味している。例えば、製品の企画・開発・製造・販売・人事などの各プロセスはチェーンのように繋がっているため「バリューチェーン=価値の連鎖」と呼ばれている。

概念自体は、1985年にマイケル・ポーター氏が著書「競争優位の戦略(Competitive Advantage)」の中で生まれました。ポーター氏は、ファイブフォース分析を生み出した人物でもあります。

商品やサービス制作に欠かせない資金、労働力、材料、配送、設備、土地、管理などの活動がバリューチェーンです。各活動は関係し合っており、バリューチェーンの質によって、コストと利益が決まります。

全体の流れを俯瞰して、各活動を正しく改善する際に便利なのがバリューチェーン分析と言えるでしょう。

バリューチェーン分析でできること

コスト削減 競合他社との差別化
特徴 各活動のコストを最適化して、費用対効果を最大化させる。
価格競争で勝ち抜くためにも効果的なアプローチ。
他社と異なるポイントを生み出して、顧客が魅力に感じる価値を創造する。
企業例 マクドナルド/Amazon/トヨタ/ブックオフなど Apple/Google/スターバックスなど

バリューチェーン分析は「コスト削減」と「競合他社との差別化」のいずれかを達成するために用いられます。

コスト削減

各活動にかかるコストを分析できるので、無駄な出費の発見に繋がります。運用効率を上げて、最終的な販売価格を引き下げる効果が得られるでしょう。

また、社員の通勤時間や配送時間の短縮など、時間的なコストを削減できれば生産性アップに繋がります。

自社の無駄を見つけるだけでなく、最安値で勝負したい時にも効果的です。

  • 安くてうまい店は〇〇
  • 最安値なら〇〇
  • 送料込みで安いのは〇〇

例えば、上記に当てはまるような商品やサービスは、コスト削減のアプローチから生み出されます。

競合他社との差別化

各活動への理解を深めることで、ターゲットに刺さる際立ったプロダクト制作が実現します。

専門性の高い商品やサービスを届けることで、独自の価値を生み出せるようになるでしょう。バリューチェーン分析は、相場より高い値段でも売れる価値を創造する際にも使えます。

  • 唯一無二の音質
  • リラックスできる上質な空間とBGM
  • 圧倒的なデータ量を誇る分析ツール

値段ではなく価値に重きをおいて、価格勝負の競合と差別化したい時は、こちらのアプローチを使います。詳しくは別の章で解説しています。

サプライチェーンとの違い

バリューチェーンとよく混同されがちなのが「サプライチェーン」です。

2つの概念には以下のような違いがあります。

  • サプライチェーン:供給連鎖
  • バリューチェーン:価値の連鎖

サプライチェーン:供給連鎖

サプライチェーンは、商品やサービスを供給(販売)するまでの活動にフォーカスしています。お金の動きに注目しているのが特徴です。

バリューチェーン:価値の連鎖

バリューチェーンは、事業活動の中でサプライチェーンを含む各活動を最適化し、顧客にとっての価値を創造することに注目しています。

サプライチェーンは、バリューチェーン分析を行う上で外せない要素です。あえて別々の概念であると意識せず、臨機応変にミックスしていきましょう。

バリューチェーン分析は2つの要素に分類される

バリューチェーン分析を行う際は「主活動」と「支援活動」の2つに分類します。主活動は「価値を生み出す活動」であり、支援活動は主活動をサポートするためのものです。

以下で各活動について理解を深めましょう。

主活動

バリューチェーン分析の主活動には、以下5つの活動が該当します。

  • 購買物流
  • 事業
  • 出荷物流
  • 販売・マーケティング
  • サービス

購買物流

原材料の仕入れや部品の受け入れ、倉庫での保管や在庫管理などの活動が含まれます。商品やサービスを開発する前の段階です。仕入れ先の場所や、商品を作る施設までの送料などが該当します。

事業

商品やサービスを作るプロセスです。倉庫、機械、組立ラインの運用コストなどをチェックします。どんな流れで商品が完成するのかを細かく分析していきましょう。

出荷物流

完成した商品やサービスを、顧客に届ける段階です。顧客への送料、倉庫の手数料、卸業者との関係などが該当します。注文処理や配送管理などのスムーズさも考慮しましょう。時間的コストの削減に繋がります。

販売・マーケティング

「どのように販売するか」や「どのように宣伝するか」を評価します。価格戦略、プロモーション、利用する広告媒体などをチェックしましょう。

サービス

商品の設置、トレーニング、メンテナンス、修理、保証、アフターサービスなどが該当します。商品・サービスの性能や質を維持するために必要な活動を評価してください。

支援活動

続いて4つの支援活動を見ていきましょう。

  • 企業インフラ
  • 人事・労務管理
  • 調達
  • 技術開発

企業インフラ

事業計画、財務、経理、品質管理の仕組みなど、ビジネス全般に関わる活動を指します。

上記と合わせて、法制度も考慮しておきましょう。

人事・労務管理

従業員の管理や雇用に関する全てのプロセスが該当します。サービス業では、優れたスタッフが競合他社との差別化に繋がる可能性もあるでしょう。

研修や育成に関する費用などもリストアップしてください。

調達

原材料、部品、設備、サプライヤーを見つける方法などが該当します。商品やサービスを作る上で、調達するべきものを全て書き出しましょう。

技術開発

開発および設計、市場調査、開発プロセスなどが該当します。

テクノロジーを駆使して作業効率を高めたり、生産コストを削減したりなどを検討しましょう。バリューチェーン全体に影響を与える重要な要素です。

バリューチェーン分析のやり方:3ステップ

ここからはバリューチェーン分析のやり方を見ていきましょう。

  • 活動を特定する:主活動と支援活動に分類
  • 活動コストと価値を決定する
  • 競争優位性の機会を特定する

活動を特定する:主活動と支援活動に分類

はじめに商品やサービスを作るにあたって、どんな主活動と支援活動があるのかを理解する必要があります。バリューチェーンをブレインダンプのように書き出して、それぞれに分類していきましょう。

まずは「開発」や「調達」など、機能ごとに活動を分けてみてください。自然に主活動と支援活動に分類できるはずです。

バリューチェーン分析の最も大事な工程になります。見落としている活動がないか確認して、漏れを防ぎましょう。

活動コストと価値を決定する

各活動がどのような価値を生み、どれくらいのコストがかかっているかを分析します。「この活動は自社にどんな価値を生み出すか?」と自問してみると、答えを出しやすいです。

<例>FREITAGの価値
トラックの防水シートに使われる素材を再利用した商品を販売。
「再利用」や「同じものが1つとして存在しない」など、特殊な素材を使ったことにより価値が生まれている。

価値の有無を判断する際は、事前に設定した目標を参考にします。コスト削減か差別化なのかによって、価値の対象も変わるからです。各活動にかかるコストも算出します。削減するべきポイントや、追加するべき活動などを明確にしていきましょう。

競争優位性の機会を特定する

バリューチェーン分析のまとめ的なステップです。ここでは「コスト削減」か「競合他社との差別化」のどちらに焦点を当てるかを決定します。

理想はコスト削減と差別化の実現ですが、両方を求めてしまうと分析が難しくなるので気をつけましょう。

コスト削減

各活動にかかるコストについて優先順位をつけていきます。重要度を理解することで、資金を投資する対象を明確にできるからです。

それぞれの活動は密接に関連しています。

<例>活動の連鎖によるコスト削減
商品の部品数が少ないほど、故障する可能性が少なくなる。
原材料コストの削減だけでなく、製造時間、従業員数の節約、カスタマーサポートにかかるコストも少なくなる。

上記の例の通り、1つの活動でコスト削減が実現できると、その後に続く活動にかかるコストも減らしていけるのです。

優先順位の高い順に並べ替えて、大幅に節約できるポイントがないか分析したり、関連性の高い活動のコストカットを検討したりして、実現可能なラインを見つけましょう。

ある活動のコストを削減したことが原因で、別のコストが上がるケースもあります。ミクロの視点とマクロの視点を行き来しながら、目的を見失わないようにしてください。

競合他社との差別化

差別化に繋がるポイントは、商品やサービス本体だけではありません。

  • ブランディング戦略
  • 販促方法
  • 関連商品の多さ

例えば、上記のような要素が差別化に繋がってきます。

Appleは素晴らしい製品を生み出し続けていますが、差別化に最も効果を発揮しているのは、マーケティング戦略であることで有名です。思わず「ほしい」と感じさせるCMやセールスコピーが印象に残ります。

商品・サービス、マーケティング方法などあらゆる活動から、顧客価値を高め、結果的に自社に利益をもたらす要素をピックアップしてください。最良の組み合わせを見つけ出して、持続可能な差別化ポイントを発見しましょう。

<参考>バリューチェーン分析の法則
4つの支援活動のうち、いずれかのパフォーマンスを向上させると、主活動の少なくとも1つに利益がもたらされる

アプローチ別に分析が完了したら、自社の商品やサービスをどのように制作・販促するのか決定しましょう。

バリューチェーン分析:マクドナルドの事例

バリューチェーン分析のテンプレート

ここでは例として、マクドナルドのバリューチェーン分析を見ていきましょう。

主活動

購買物流 事前に食品および飲料の原材料を低コストで提供するサプライヤーを選定。野菜、肉、コーヒーなどの品目の仕入れ先を準備・調達します。
事業 事業はフランチャイズであり、各店舗はフランチャイジーが所有しています。世界中に39,000以上の店舗があります。
出荷物流 注文はカウンターでのみ。
ナプキンや片付けなどはセルフサービス。
ドライブスルーサービスに重きを置いている。
販売・マーケティング SNSの投稿、雑誌広告、ビルボードを含むメディアおよび印刷広告にフォーカスしている。
サービス 質の高いカスタマーサービスの実現に注力。従業員に対して詳細なトレーニングと福利厚生を提供。顧客満足度を最大限にする支援を行っている。

支援活動

企業インフラ あらゆる地域で業務を監督する経営幹部や、法律問題をカバーする法務顧問がいます。
人事・労務管理 企業と店舗の両方のポジションに応募できる求人ページを用意。時給形式のパート・アルバイトと、給与形式の正社員の両方を採用しています。スキルを磨ける支援プログラムも提供しています。
調達 デジタル調達会社「Jaggaer」 を使って、世界中の様々な地域のサプライヤーと関係を確立しています。
技術開発 注文しやすさと誤注文を防ぎ、運用効率を高めるためにタッチ式のキオスク端末の導入に投資しました。

マクドナルドの使命は「低価格で美味しい食品を迅速に提供する」ことです。

タッチパネルの端末やセルフサービスの導入により、注文にかかるコストを最小限にしていながら、スタッフの丁寧な対応に力を入れました。

仕入れに関しては、事前に低コストで提供してくれるサプライヤーと契約。コストパフォーマンスに優れたサービスの提供に成功しました。

国民の満足度と信頼を獲得した結果、マクドナルドは利益率50.8%を誇っています。

1940年に設立されたマクドナルドは、長い歴史の中で幾度とないチェンジをしてきました。分析と改善を繰り返したからこそ、価格・質ともに満足度の高いサービスを提供できていることは間違いありません。

マクドナルドの事例を参考にして、自社のバリューチェーン分析を行ってみてください。

本記事で使っているバリューチェーン分析のテンプレートは、下記記事より無料でダウンロードできます。はじめてのフレームワークの実践に、ぜひ活用してみてください。

バリューチェーン分析を成功させるコツ

バリューチェーン分析を成功させるコツを見ていきましょう。

競合調査や市場調査をする

バリューチェーン分析には、競合他社や市場のデータが欠かせません。比較対象がなければ、自社がどれくらいの立ち位置なのか分からないからです。どれくらいの競合がいるのかや、市場自体の収益性なども分析する必要があります。

バリューチェーン分析を行う前に、競合調査や市場調査を行って、データに基づいた分析を行えるようにしましょう。

他のフレームワークと組み合わせる

バリューチェーン分析は、コスト削減や差別化要素の洗い出しにフォーカスしたフレームワークです。

戦略を作る際や、顧客視点、企業視点の違いなど、目的に合ったフレームワークを活用することが大切になります。フレームワーク選びを間違えると、求めている答えを出せない原因になってしまうのです。

ビジネスシーンに役立つフレームワークは、実に様々な種類があります。バリューチェーン分析は数あるフレームワークの一部であり、不得意なシチュエーションがある点も覚えておきましょう。

まとめ

バリューチェーン分析は、商品やサービスを作る段階からアフターサービスまで一連の活動を俯瞰できるフレームワークです。

無駄なコストを発見したり、競合と差別化できるポイントを見つける際に活用できます。バリューチェーン分析を定期的に行えば、より良い商品やサービスにブラッシュアップしていけるでしょう。

全ての活動はチェーンの如く繋がり合っています。

多様化する顧客価値や、変化の激しい時代。費用対効果の高い商品やサービスを生み出すためにも、バリューチェーン分析を上手に活用していきましょう。

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第12回 :バリューチェーン分析とは(当記事)