新しい事業を始める時や、ビジネスアイデアを発掘する時に役立つのが市場調査。

ニーズを的確に捉えることで、事業を成功させる可能性を最大限に高められます。革新的かつ斬新なアイデアほど、ニーズとのズレや「どうしたら売れるか」を厳密にチェックする必要があるのです。

しかし、市場調査はコツを知らずに実施しても、抽象的な「答え」しか導き出せません。せっかくコストをかけるなら、期待通りの効果を得たいものですよね。

本記事では、市場調査のやり方を5ステップに分けて解説します。記事の後半では3つの事例もお届けするので、ぜひ最後まで読んでみてください。

市場調査とは

市場調査とは、事業や商品が市場のニーズ(需要)と合致しているか確認するために行う調査です。

  • 需要と供給の大きさとバランス
  • 投資コストに対して得られるリターン
  • 新規参入する価値があるかどうか

上記要素を分析するには、市場調査が欠かせません。

若者が集まる人気エリアに高級な寿司屋を出しても浮いてしまうように、市場の様相を具体的に調査しなければ、よきビジネスアイデアも本来の実力を発揮できません。情報をより多く取得し、適切な戦略を練る必要があります。

マクドナルドの創業者レイ・クロックは、「マクドナルドの本質は、ハンバーガーを売ることではなく、不動産業だ」と言いました。市場調査がいかに重要であるかがこの言葉に示されています。

市場調査とマーケティングリサーチの違い

議論の的になりやすい市場調査とマーケティングリサーチですが、ハッキリとした違いは定義されていません。

一般認識の範囲で言えば「市場調査はマーケティングリサーチの一部」です。現状のニーズや業界の動向を探る市場調査は、マーケティングリサーチの中で世の中の「今」や「事実」に着目した調査方法と言えるでしょう。

市場調査をやるべき理由

市場調査をやるべき理由はたくさんありますが、シンプルに言えば「事業を失敗させないため」です。

  • ニーズの大きさ
  • 市場規模
  • 競合
  • 最善のPR方法
  • 趣味趣向
  • トレンド

上記のような要素が不透明なまま、新規事業をスタートさせると、どうでしょうか?事業が失敗に終わる可能性が高まります。

ラーメン店を出店するなら、ラーメン激戦区に出せばいいわけでもなく、ラーメン店がないところに出せばいいわけでもありません。人口規模、人の流れ、客層、競合、立地など、多様な角度から調査し、よりよい条件のテナントを探すでしょう。

市場との「ズレ」をなくすために、様々な市場調査の方法が存在します。

市場調査の正しいやり方:5ステップで解説

5つのステップに分けて、市場調査のやり方を解説します。

  1. 調査目的を明確にする
  2. 市場調査を設計する
  3. 市場調査の実施
  4. 結果の分析
  5. 意思決定

1. 調査目的を明確にする

市場調査で最も大切な部分です。

目的が漠然としていると、予算、時間、コストなどが無駄にかかる原因になります。調査結果が出ても、目的がハッキリしていなかったために抽象的になり、意思決定に活かせなくなる可能性も高いです。

調査目的が鮮明であれば、コスパの良いデータとして意思決定に活用できるでしょう。

目的を明らかにする際は「解決したい課題」に加えて「結果をどのように意思決定に活かすのか」も具体化してみてください。

<例①>

ターゲット層の年齢・性別・盛んな時間帯を分析して、最も利益率の高い宣伝方法を見つける

<例②>

商品Aの売上が下がった原因を究明して、売上を5%以上アップさせる

ここで目的がブレていると、期待通りの結果は得られません。

その後の流れを決める重要なポイントなので、時間をかけて熟考するようにしましょう。抽象的すぎず、かつニッチになりすぎないように気をつけてください。

2. 市場調査を設計する

明確な目的ができたら、市場調査をどのように進めるか設計していきます。

  • どんな方法で
  • どれくらいの期間で
  • どれくらいの予算をかけるか

上記の要素を決定していく工程です。

どんな方法で

市場調査の方法は、大きく「定量調査」と「定性調査」の2つに分類されます。

定量調査 定性調査
特徴 数値で表せるデータを収集分析する方法 発言や行動など、感情の背景にあるニーズを分析する方法
認知度/成約率/購買率/年齢層/満足度など 利用シーン/購入プロセス/生活パターン/使用用途など
手法例 アンケート
購買データ分析
インタビュー
覆面調査
調査人数 約50名〜 〜約20名

定量調査は「数」にフォーカスした方法で、認知度や購買率などをデータとして収集します。

アンケート調査や購買データ分析がメジャーな手法です。統計データから全体像を掴んだり、数値データをグラフ化して可視化する際に役立ちます。

定性調査は、人間の発言、行動などに重きを置く調査方法です。数値化が難しい感情面や理由などを分析したり、どのような心理で商品を購入したのかなどを究明します。

手法はインタビューや覆面調査などが一般的です。

定量調査は現状分析に長けており、定性調査は原因や問題点を明確にできます。2つの調査を組み合わせることで、より詳細な分析が可能です。

どれくらいの期間で

市場調査の期間を決めていきます。

意思決定をしなければならない期日をデッドラインとし、そこから逆算してスケジュールを組むのがおすすめです。

例えば、アンケート調査とインタビュー調査を行う場合、以下の要素を考慮する必要があります。

  • 調査の下準備
  • 対象者の雇用
  • 調査実施
  • 分析
  • 意思決定

各要素でどれくらいの時間がかかるのかを見積もって、市場調査にかける期間を決定しましょう。

ちなみに期間を決める際は、各要素にバッファを設けておくと良いです。特にはじめての市場調査では、予定が変わる可能性も大いにあります。予め余白を取って、万が一の事態に備えておくと安心です。

どれくらいの予算をかけるか

市場調査にかける予算を決めていきます。

費用は市場調査のやり方や、依頼する企業などによって大きく変わるものです。はじめて調査を依頼する時は、必ず相見積を取って相場を把握してください。比較検討した上で、依頼会社を決定しましょう。

自社で調査を行う場合は費用を抑えられる反面、調査結果の質に問題が出やすいので気をつけてください。

注意点としては「予算をもとに市場調査の方法を決めない」ことです。安く済ませようと思うと、満足の行く調査結果が得られず、さらなる出費に繋がる可能性もあります。優秀な調査会社に依頼すれば、費用も自ずとかかるものです。

費用を抑えるには、まず総務省統計や調査機関からデータが発表されていないか確認してみましょう。情報によっては無料で手に入ることもあります。コストを最小限に抑えるためにも、事前にチェックしておいてくださいね。

設計が完了したら凡ミスを防ぐため、周囲の人にレビューしてもらいましょう。

3. 市場調査の実施

設計に沿って、実際に市場調査を行っていきます。

自社で調査を実施する際は、スムーズに進んでいるか逐一チェックしてください。答えを誘導してしまったり、限られた選択肢しか与えられていないなど、実行してはじめて浮き彫りになる問題もあります。

注意点は、欲張りすぎないことです。「もっと回答がほしい!」と質問攻めをしたり、答えを焦らせてしまうケースも少なくありません。偏りの少ない結果にするためにも、フラットな調査を意識してください。

市場調査に細かいトラブルはつきものです。状況に応じて臨機応変に対応できる準備をしておきましょう。

4. 結果の分析

実施した調査をもとに結果を分析していきます。

集計したデータを分析してレポートにまとめるのが一般的です。レポートを作る際は、市場調査の目的を意識しましょう。意思決定に役立つレポートであることが最重要です。

調査結果を上手くまとめられない時は、レポート作成作業のみ専門業者に依頼することもできます。課題解決の判断材料になるのが市場調査の最終ゴールです。様々な角度から検証・分析を行ってみてください。

5. 意思決定

最後はレポートをもとに意思決定を行います。

市場調査はレポートにまとめるのがゴールではなく、具体的なアクションに繋げることです。事前に設計した計画をもとに、課題解決に役立ててみましょう。

市場調査の手法

ここでは、市場調査に用いられる具体的な調査方法を紹介します。

アンケート調査

アンケート調査は、定量調査のスタンダードな手法の1つ。

課題解決に関連する質問を、想定されるターゲットに答えてもらいます。商品やサービスの認知度、どこで購入するかなどを集計し、数値化する際に用いられることが多いです。

とてもシンプルなアンケート調査ですが、質問内容や聞き方によって回答が変わりやすい点に注意してください。

購買データ分析

購買データ分析は、顧客が買い物をしたプロセスをデータとして分析する調査方法です。

  • 誰が
  • いつ
  • どこで
  • 何を
  • いくらで

上記の情報をデータ化します。

顧客の年齢・性別・居住地なども分析することで、ターゲット層をより明確にできるのが特徴です。調査をする際は、買い物かごに入っている他の商品なども分析します。ターゲット層の理解を深めることで、的を得た商品開発ができるでしょう。

ネットリサーチ

ネットリサーチは、アンケートサイトや質問フォームに回答してもらう調査方法です。

低コストかつ短時間で大人数に質問できるのが特徴。インターネット上で行えるため、日本全国からデータを集められます。

ただし、インターネット利用者に限定されるため、対象者や調査ジャンルが限られてきます。また、クリック型の回答にする場合、真面目に回答しない人も出てくるでしょう。誤差も計算してデータを活用してください。

会場調査

特定の会場に対象者を集めて、アンケートやインタビューするのが会場調査です。

商品やサービスをテストしてもらい、印象や使い勝手などの評価をしてもらえます。対象者と対話できるため、テキストでは伝わらない感情的な部分もヒアリング可能です。あいまいな回答を掘り下げられるメリットもあります。

ただし、人を集めなければならないため費用が高くなりやすいです。会場調査して得られるリターンを考慮して、実行するか決めると良いでしょう。

郵送調査

郵送調査はアンケート用紙やハガキなどを郵送して、回答を返信してもらう調査方法です。

印刷コストがかかる上、返信率が低いため、一見すると非効率に感じます。しかし、特定の企業や施設などを対象とした調査を行う際は、有効に働くケースが多いです。郵送する住所のリストがあれば、かんたんに調査できるのも魅力。

回答率を最大化したい場合は、予め回答者を抱える調査会社に依頼することをおすすめします。

ホームユーステスト

ホームユーステストは一定期間、商品を家庭で使ってもらいレビューをもらう調査方法です。

リアルな感想を収集できるだけでなく、想定外の使用用途が見つかるケースも珍しくありません。ある程度の長期間レビューしてもらえるため、製品の消耗具合や弱点を発見するキッカケにもなるでしょう。

ただし、モニターごとに利用シーンが違うため、誤差が生じやすいです。また、配送費や報酬などのコストもかかります。

モニターを厳密にチェックできないため、勝手に商品情報を公表されるリスクも。信頼できるモニターを抱える調査会社へ依頼すると安心です。

ソーシャルメディア分析

ソーシャルメディア分析は、Instagram、Twitter、FacebookなどのSNSを使って、業界や製品に関する情報を分析する方法です。

本音を集めやすいため、商品の改善点や問題を見つけやすい査方法になります。誘導してしまいがちなインタビューとは違い、すでにある回答を収集できるのがメリットです。

細かいポイントや、価格についてなど個人の本音を調査したい時に最適と言えるでしょう。

デプスインタビュー

デプスインタビューは、対象者とインタビュアーが1対1で対話する調査方法です。

「デプス=深い」という意味で、個人の表に出にくい部分を調査できます。例えば、人前では話しづらいデリケートな話題について掘り下げることも可能です。1対1だからこそできる深い情報収集が実現します。

ただし、対象者の意見になりやすく、偏りが生じるデメリットも。深く考えすぎて平均的な回答に戻るケースもあります。インタビュアーのスキルも試される調査方法です。

グループインタビュー

グループインタビューは対象者を3〜6名ほど集め、司会役から受けた質問に回答する調査方法です。

対象者は自由に意見交換できるため、様々な情報を収集できます。統計的なデータが得られるわけではありませんが、正直な意見を肌で感じられるのが特徴です。コストはそこまでかからないものの、複数名集めるため日時の調整が難しい場合も。

行動心理や、潜在ニーズなどを把握するのに有効な調査方法と言えるでしょう。

オンラインインタビュー

オンラインインタビューは、ビデオ通話形式で行われる調査方法です。

インターネット環境とPCがあれば実施でき、低コストで全国各地の対象者をインタビューできます。デプスインタビューやグループインタビューを、オンライン上で実施することも可能です。

対象者の表情が見えるので、テキストの回答よりも豊かな情報が得られます。

ただし、通信環境が不安定になったり、対象者のデバイスの違いによって誤差が生じることもある点に気をつけてください。最小限のコストでインタビューしたい時に便利な調査方法です。

覆面調査(ミステリーショッパー)

覆面調査は、ミシュランの調査員のように一般客にまぎれて秘密裏に調査する方法です。ミステリーショッパーとも呼ばれます。

多くの調査方法が商品やサービスが対象になっているのに対し、覆面調査は企業や店舗自体を評価するのが特徴です。例えば、複数の飲食店を経営する企業が、クレームの多い店舗を覆面調査すれば改善策が見えるでしょう。

覆面調査は、された側からすると嫌な気持ちになるケースもあります。結果の伝え方に注意して、建設的な話し合いができるようにしましょう。

行動観察調査(エスノグラフィ)

行動観察調査は対象者の自宅を訪問して、実際に行動を観察する調査方法です。

実際の行動を観察できるため、インタビューでは得ることのできない情報を収集できます。特に無意識な行動は、この調査方法でしか分析できない貴重なデータになるでしょう。

調査員は、対象者と同じ空間に身を置くため共感しやすく、解像度の高い分析が可能です。

ただし、調査員がいることで気をつかい、普段の生活と異なる行動を取りがちなデメリットも。リラックスできる雰囲気作りも大切です。

市場調査の具体的な事例

最後に市場調査の事例を3つ紹介します。

事例1. 製造メーカー:ネットリサーチ

課題:自社で製造している製品のうち、売れているもの売れてないものの理由を明らかにして、新製品の開発に役立てたい。

ネットリサーチで一般消費者にアンケートを実施。調査期間は1ヶ月を要した。収集したデータを年齢性別、購入頻度、利用頻度などで階層分け。結果、売れている理由と売れてない理由の両方が浮き彫りになり、新製品のコンセプトを決めることができた。

事例2. 官公庁:郵送調査

課題:展開中の中小企業向け支援サービスを、より有益なものにするため課題やニーズを理解したい。

業種と企業規模を絞り、条件を満たす企業1,000社に郵送調査を実施。調査期間は2ヶ月ほど。従業員数や所在地などと課題別に分類していくと、共通の悩みや問題点が見つかった。データをもとに、中小企業の問題解決ができるような支援サービス内容に変更した。

事例3. 装置メーカー:オンラインインタビュー

課題:バイク部品の装置製造技術を活かして、自動車業界へ新規参入したい。

自動車業界のキーパーソンとなる人物数名に、オンラインインタビューでヒアリングを実施。期間は3ヶ月ほど。市場の規模や現状、自社の評価などを意見してもらった。業界全体で各企業のシェア率をグラフ化したところ、参入価値のある部門を発見。少人数で新規参入を始めることを決定した。

最後に。
マーケターは繊細な感度を持て。

一般的に知られている市場調査の手法について解説してきました。

これまで紹介してきた市場調査の方法は重要です。市場調査によって、問題の数値化や言語化が可能になるためです。しかし、ただ調査結果を鵜呑みにするだけでは、本当の市場の様相は見えてきません。

最終的には、それらの情報を自分の「感覚」に落とし込む必要があります。

ゆえにマーケターは繊細な感度を持ち、人々の行動原理、1人の人が何を求めているか、社会の流れなど、つまり「人を知る」ことが欠かせません。そこから人々が何を求め、何をどう提供すべきかが見えてきます。

それには人とコミュニケーションをとり、人と関係性をつくれる自分をつくることも重要です。

例えば、ファミリー層が中心の郊外ニュータウンには、スーパー・薬局・100均・クリニック・学習塾など、生活に必要な店舗は揃っていますが、娯楽がない場合が少なくありません。ニーズがないから?本当にそうでしょうか。

もしかしたら、オシャレな雑貨屋やカフェが求められていたりするのではないでしょうか。

そうした潜在ニーズは表面的な調査からは見えてこない場合が多くあります。だから、マーケターは人をよく知ることが結局は重要になってきますね。それらも含めて市場調査と言えるでしょう。

変化の波が激しい現代を生き残るためにも、的確に市場調査を行えるようになりましょう。

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