どんな事業でも競合の存在を無視することはできません。
企業はこぞって「他社よりも魅力的」な商品やサービスの開発に勤しんでいるものですよね。競合と差別化できれば、市場で勝ち抜いていける要素になります。
自社が他社より優れている点を発見するのに役立つのが「Points of X」というフレームワークです。消費者と企業の双方で価値となる差別化ポイントを見つけるのは、どんな思考や方法があるのでしょうか。
本記事ではPoints of Xについて詳しく解説します。
シンプルで強力なフレームワークで競合と差別化したい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
Points of Xとは
Points of Xとは、事業の差別化戦略に役立つフレームワークです。頭文字を取って「POX」と略されることもあります。1997年に ケビン・レーン・ケラーが刊行した「戦略的ブランド・マネジメント」で紹介されたのを契機として、世の中に浸透しました。
画像を見て分かる通り、Points of Xでは競合1社と自社を分析します。「競合10社 vs 自社」のような使い方はできません。シンプルに1対1の比較をすることがPoints of Xの特徴でもあります。業界全体と比較できるわけではない点を覚えておいてください。
Points of Xは以下3つの要素を分析します。
- Difference:相違点
- Parity:類似点
- Failure:脱落点
Difference:相違点
「Difference(ディファレンス)」は、競合他社と異なる点を指します。
他社と違う点を明確に示すことは、顧客があなたのプロダクトを購入する理由になるでしょう。顧客は所有感や独自の価値を見出します。結果として、企業のブランドイメージの向上にも繋がるのです。
「パソコン」という商品という点はWindowsと変わらないが、OSや高級感のあるハードなど、唯一無二のデザインを備えている。インテリアにもなり得る点は、消費者にとって「買うべき理由」に繋がっている。
「Points of Difference」の頭文字を取って「POD」と略されます。
Parity:類似点
「Parity(パリティ)」は他社と同じポイント、つまり類似点を指します。
消費者にとって「なければ買わない」点とも言えるでしょう。購入する一番の理由にはならないものの、それ自体がなければ選ばないようなポイントです。
どんなにいい匂いがしても、どんなに保湿効果があっても、手がきれいに洗えなければ消費者に選ばれることはないでしょう。PODと同様「POP」と略されます。
Failure:脱落点
「Failure(フェイリヤ)」は消費者にとって「選ばない」ポイントを指します。
「競合Aが選ばれて、自社が選ばれない理由」があるとすれば、それがFailureになります。
POXのフレームワークでは、基本的に新しい商品やサービスに関する分析を行うため、自社のFailureを記入することはありません。競合の既存商品と、これから開発する自社のプロダクトを比較分析する際に利用するのがスタンダードな使い方になっています。こちらも頭文字から「POF」と略されます。
「POXはPOD、POP、POFからなる、差別化戦略に特化したフレームワーク」ということを覚えておきましょう。
そもそもPoints of Xを使う意味とは?
POXを使う最大の理由は「差別化」にあります。
では、そもそもなぜ差別化が必要なのかと考えると「自社の居場所を見つけて、確固たるものにすること」ではないでしょうか?
新しいプロダクトを開発する際は、誰しも「競合にはないポイント」を意識するでしょう。他社と明確に異なる点があれば、消費者に対して分かりやすいアピールポイントになるからです。
しかし、実は差別化することは難しくありません。
- 相場よりも高額で販売
- 他社が使っていない素材を使用
- 今までにないサイズ・重量
例えば、上記のように「今までになかった」ことをすれば、かんたんに差別化できるのです。フレームワークを使うまでもありませんね。
ただし、この思考でプロダクト開発を行うと、突拍子もないものが生まれてしまいます。熱々のお茶をアイスクリームとして販売するようなものです。市場のニーズとはかけ離れたものができあがってしまうでしょう。
ここでPoints of Xを活用すると、市場やニーズとのズレを理解できるようになります。
差別化要素である「POD」を明確にしながらも「POP」でニーズに対応。「POF」で搭載すべきでない機能や、デザインを見つけることができます。
他社との相違点が市場に浸透すると「〇〇社=製品にはじめて〇〇した会社」という認識に変わります。すると、同じ機能を持ったプロダクトが他社から販売されても「〇〇社の真似」のように考えられるのです。
これこそが差別化する意味であり、POXを活用する理由と言えるでしょう。
Points of Xの活用で得られる5つのベネフィット
POXで得られる具体的なベネフィットについてまとめました。
- ブランドロイヤルティを刺激
- ブランドアイデンティティに貢献
- ターゲットの特定
- 大企業に負けない価値を生み出す
- 競争上の優位性
ブランドロイヤルティを刺激
POXを活用することで、消費者に対して自社のロイヤルティを刺激できます。
ロイヤルティとは忠誠心のようなもの。競合と明確に違う点をアピールできれば、消費者は「他社よりも優れている」と納得した上で、商品を購入できるようになるでしょう。消費者の忠誠心が高まると、新製品をリリースした際に購入してくれる可能性が高まります。
「スピーカーならBOSE」や「服ならユニクロ」といったように、競合他社の多い業界でも着実にファンを育成していけるのです。
ブランドアイデンティティに貢献
非機能的な特性のある差別化ポイントは、自社やブランドのアイデンティティに対してプラスに働く可能性があります。
<例>コーヒーショップ | |
Parity:類似点 | コーヒーの提供 |
Difference:相違点 | フェアトレードの促進 |
どのショップも「コーヒーを提供する」というポイントは共通していますね。
ここで、フェアトレードに力を入れている点を強調すると、消費者があなたのショップを選ぶ1つの理由になるのです。正当な理由を見つけた消費者は、リピーターになってくれます。
人はコーヒーの味や店内の雰囲気だけでなく、コーヒーショップの理念やビジョンにも共感します。POXを活用することで、機能面以外の差別化ポイントに気づけるようになるでしょう。
ターゲットの特定
POXは、差別化ポイントを深堀りして、よりニッチなターゲットに特定することも可能です。
Google検索をイメージしてみてください。
- ボールペン おすすめ
- ボールペン 社会人 おすすめ
- ボールペン 社会人男性 黒 0.5mm おすすめ
最もターゲットを絞れているのは明らかに3つ目の「ボールペン 社会人男性 黒 0.5mm おすすめ」ですね。
「ボールペン おすすめ」よりも検索数は少なくなるものの、購入率を上げられる効果があります。なぜなら、ニッチなニーズに対して的確なコンテンツを作っているからです。
より具体的なターゲット像に絞り込むことで、消費者の満足度を上げられる可能性が見えてきます。「かゆいところに手が届く商品」は、ブランドへの忠誠心を育成する上でも役立つでしょう。
大企業に負けない価値を生み出す
大手は大量生産により低価格なプロダクト作りに長けています。大衆の共感を得られる商品を、中小企業に真似できない単価で実現できる財力こそ、大企業の差別化ポイントだからです。
POXを活用すれば、資本力以外で大企業に勝てるポイントを分析できます。
原材料を全て地元で調達
完全オーダーメイド
ソール交換永久無料
例えば、上記のような差別化ポイントを打ち出したとしたら「1つのものを長く大切に愛用したい」というニーズを満たすことができます。消費社会の中で、自社の居場所を確立する1つの戦略として有効です。
POXを上手に使うことで、大企業とは違う成功パターンを発見できるでしょう。
競争上の優位性
十分な差別化ができれば、市場の中で唯一無二の存在になれます。
「〇〇を買うなら▲▲」のように「製品=企業名」と、消費者が連想するようになるのです。また、そのメーカー以外を連想しなくなるので、競争から抜け出せる効果が期待できます。
食品からエルメスのバーキンまで何でも揃うメガショップ。
「ドン・キホーテと同じ機能を持った店舗はどこか?」と聞かれた時に、パッと別の選択肢を想像できた人は少ないでしょう。
優位性を高めることで「AするならB社」のような強い結びつきができ、さらなる売上げアップに繋がっていきます。「POXの実施」→「差別化」→「居場所の確立」という流れで、市場の中に自社の居場所を見つけられるようになるでしょう。
Points of Xで賢く差別化するヒント
POXでセンス良く差別化するヒントをまとめました。
- 競合他社を分析する
- 価値を上げるべきポイントの特定
- 企業理念を強調する
- あえてトレンドに逆らう
競合他社を分析する
「競合」は差別化する上で欠かせない「比較対象」です。
比較対象がどんなものを世に提供しているのかは、できる限り詳しく把握する必要があります。特にPOXは「自社 vs 競合A」のように、1つの企業を相手に分析を行うため、具体性に欠けると悪い結果を招いてしまうのです。
競合他社のどんなポイントが優れているのかは、市場や顧客ニーズなども含めて冷静に分析しましょう。
機能的
信頼性の高さ
ブランドとしての価値
上記のような差別化ポイントを見つけたら、自社で全ての要素を満たせないか検討しましょう。
上記の画像を見て分かる通り、競合の差別化ポイントを自社の類似点にできるのが理想です。なおかつ、他社に実現できない差別化ポイントを新たに生み出せると、市場で存在感を発揮できるでしょう。
新しいサービスや企画をスタートさせる際、欠かせないのが競合調査です。 自社がどれくらいの立ち位置にいるのか ライバルと差別化するポイントはどこか 魅力的な付加価値はあるか 競合調査は、上記のような要素を明確にする時に役立ちます。 しかし、正しい方法を把握しないで競...
価値を上げるべきポイントの特定
競合と差別化できているポイントを見つけたら、強みをさらに強化できないか検討してみてください。
自社にとってプラスに働くポイントを強化できると、消費者がその商品を選ぶ理由を生み出せます。「業界一安い」や「唯一無二の質感」など、消費者が価値を見出しやすいポイントであるほど、大きなリターンが得られるはずです。
企業理念を強調する
顧客は企業理念を、商品やサービスの延長と考える可能性があります。企業理念を強調することは、顧客と従業員の両方にとって良い体験を提供しつつ差別化できるケースもあるのです。
<例>スーパーマーケット:販売商品と従業員の給料は競合と同じ | |
企業理念 | お客様ひとりひとりに丁寧な接客をする |
顧客 | 気軽に質問できる。おすすめのレシピを教えてもらえる。会話の中で笑顔が生まれる。また来店したくなる。 |
従業員 | 顧客からもらった笑顔がやる気アップに繋がる。さらに良い接客を目指す。 |
売っている商品自体は同じでも、接客態度が素晴らしければ差別化になります。
笑顔であいさつしてもらえたり、自分の存在を覚えていてくれる従業員がいたら「〇〇さんに会いにあのスーパーマーケットへ行こう」という理由づけになるでしょう。
企業理念を強調して差別化することで、思わぬメリットを得られることもあるのです。
あえてトレンドに逆らう
「あえて」トレンドに逆らうことで、独占的な印象やプレミアム感を演出できるケースもあります。どの企業も行っている慣行を無視することで、ブランドの存在感を際立たせることも可能です。
<例>アイスクリームメーカー | |
トレンド | 自社 |
安価な成分を軸にフレーバーの種類と生産量を増やす | 天然成分のみで少量のフレーバーを提供する |
上記の例の場合、あえてフレーバーを限定してオーガニックなアイスクリーム作りに舵を切っています。中小企業が大企業に勝つ戦略としても有効的です。
ちなみに「季節が過ぎたら値下げセール」や「定期的なアップデート」は、やめるべきではありません。明確な線引はありませんが、極端なトレンドへの逆光はデメリットも招きます。
自社の強みを活かしつつ、新しい差別化ポイントをかけ合わせて、市場に居場所を作れないか検討してみましょう。
Points of Xのやり方を事例を交えて解説
POXのやり方はとてもシンプルです。
- 競合調査で比較対象を決定する
- POXを実施
- 差別化戦略を決める
最も大事なのは比較対象を決めるステップになります。
事例を参考にPOXのやり方を見ていきましょう
事例1. 転職メディア
星の数ほどある転職メディア。差別化をするために「40代前半」に限定して特化サイトを作りました。
転職メディアの主要なターゲットは10代後半〜20代ですが、あえて40代前半に絞ったことで、利用者と掲載する転職サイトの質が向上。若者向けの情報がなく、転職のイロハも全て40代前半に的を絞っています。
ターゲットを絞ったことで、転職サイトのコンバージョン率も上がりました。広告主から特別オファーをもらい、転職希望者1人あたりの報酬が30%アップしました。
転職先を探すだけでなく、40代前半で転職に悩んでいる人の問題解決にも貢献。結果として「40代の転職なら〇〇が最高」という地位を確立できました。
事例2. 惣菜店
個人経営の惣菜店は、大手チェーン店にメニューの数で勝つことはできません。
過去10年の営業経験から「開店当時から売れ続けているメニュー4つ」と「日替わり弁当」の計5品のみを販売することに決定。4つのメニューで余った食材を、日替わり弁当にリサイクルする流れを採用します。
結果、廃棄になってしまう量が多い大手チェーンとは異なり、ほとんどロスの出ないエコな惣菜店に変身。「無駄を出さない」というキャッチコピーを企業理念にしました。店内や駐車場の旗にキャッチコピーを掲載します。
近所の人や仕事の通り道で利用した人から「いつも安定した美味さがあって良い」や「食べたいメニューが確実にある」などのポジティブな口コミが広まり、独自のポジションを確立できました。
事例3. アパレルショップ
一般的なアパレルショップにはS、M、Lの3サイズを中心に揃えているため、大きなサイズを試着できない問題がありました。
「大きなサイズを持って試着室に行く」という行為も、当人からすると周りの目を気にしてなかなかできませんでした。この問題が「大きなサイズを陳列しても売れない」原因になっていたのです。
そこで、XL以上の大きなサイズの服しかないアパレルショップをオープン。
来店客は周りの目を気にすることなく、ゆっくり店内を物色できるようになりました。様々なデザインの服が揃っているので、以前のように「これのXXLはありますか?」とスタッフに質問する機会も激減します。
「〇〇なら自分に合ったサイズがすぐ買える」と話題になり、店舗周辺だけでなく、県をまたいでショッピングに来る人も生み出します。
現在は店舗での売れ筋トップ10を軸に、オンラインショップでの販売活動も始めています。在庫リスクを最小限にしつつ、ネット販売のメリットを最大化できるようにPDCAを繰り返しています。
こちらで利用しているPOXのテンプレートは無料でダウンロードできます。ぜひ、テンプレートを活用して、POXにチャレンジしてみてくださいね。
ライバル企業との差別化や、自社独自の強みなどを知る際に活用される競合調査。 企業の個性を打ち出しつつ業界内でシェアを獲得するには、冷静な分析が欠かせません。しかし「競合調査と言っても何をどうすれば良いのか分からない」という担当の方も多いはず。専門機関はコストもかかるため「まずは自社でやってみた...
まとめ
Points of Xは新たな商品やサービスを作る上で欠かせない「差別化」について深堀りできるフレームワークです。単純に違う点を作るのではなく、市場やターゲットのニーズに合ったプロダクトを生み出すのはかんたんではありません。感覚ではなく、分析に基づいて戦略を立てることが大切です。
自社の居場所を確立するには、見た目や機能だけでなく、企業理念やターゲットを特化するなどの方法もあります。消費者は常に購入するべき理由を探しているものです。
POXを最大限に活用して、あなたから買われる理由を見つけてみてください。気軽にできるフレームワークだからこそ、定期的に使って自社の価値を高めていきましょう。
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